人工降雨を用いたモンゴル半乾燥草原における表面流の発生と土壌侵食の研究

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  • Overland flow generation and soil erosion under simulated rainfall on semiarid grassland of Mongolia

抄録

1.はじめに<BR> モンゴルの国土面積の約75%は寒冷な半乾燥草原であり,一年を通して放牧活動が行われている。モンゴルでは,1990年の市場経済化以降の放牧家畜頭数が急速に増加しており,草原への放牧活動の負荷が高まっている(Chullun and Ojima, 1994)。特にモンゴル北東部のヘルレン川流域の丘陵地草原では,水食にともなう土壌流亡によって土地荒廃が進行していることが指摘されている(Onda et al., 2007)。しかし,モンゴルでは,草原における表面流の発生と土壌侵食の実態が明らかにされていないのが現状である。そこで本研究では,モンゴル半乾燥草原において振動ノズル式降雨実験装置を用いて浸透能・侵食実験を行い,地表の被覆状態の違いが最終浸透能と土砂流出量に及ぼす影響を明らかにした。<BR> <BR> 2.研究地域と人工降雨実験の方法<BR> モンゴル北東部を流れるヘルレン川流域に位置するヘルレンバヤンウラン(KBU)とバガヌール(BGN)では,これまでに対照的な放牧活動が行われてきた地域である。KBUでは,放牧家畜の越冬地として歴史的に過放牧が行われており,一方のBGNでは,1990年の市場経済化以降に放牧家畜頭数が増加している。それぞれの地域における雨季の地表植被率は,KBUが29%でBGNが61%である。放牧圧と地表植生が異なるこの二つの地域を調査地域とした。<BR> 調査地域の植生の状態がほぼ均一な斜面に放牧区と禁牧区(50 m×25 m)を設定し,禁牧区を高さ1.5mのフェンスで囲って放牧家畜の影響を除去した。禁牧開始から4年経過した後に,それぞれの区画において人工降雨と小プロット(1 m×1 m)を用いて浸透能と土砂流出量を測定した。人工降雨の降雨強度は180 mm h-1で,この降雨強度のときの雨滴衝撃力は,調査地域の地表流発生における雨滴衝撃力のいき値(400 J m-2 min-1)よりも大きい。小プロットに人工降雨を30分間与え,表面流出量を1分間ごとに記録し,表面流出水を3分毎に採取した。浸透能は人工降雨の降雨強度と表面流の流出高の差分として算出した。また,表面流出水をろ過し,浮遊土砂量を測定した。さらに,小プロットの上,下端壁に雨滴侵食土砂を捕捉するためのボードを取り付け,30分間の人工降雨によって発生した雨滴侵食土砂量を測定した。<BR> <BR> 3.結果<BR> KBUとBGNにおける禁牧区の植被率は46.7%と91.7%で,放牧区と比べてそれぞれ25 %と45%の増加に転じた。禁牧区で測定された最終浸透能は,KBUとBGNのいずれにおいても80 mm h-1よりも高かったが,放牧区では40 mm h-1よりも低い値を示した。地表流とともに流出した土砂量はKBUの放牧区で最大を示し(253.6 g),BGNの放牧区では108.7 gであった。これに対して,KBUとBGNにおける禁牧区の流出土砂量は少なく,それぞれ55.1 gと14.4 gであった。雨滴侵食量は,放牧区についてKBUとBGNでそれぞれ1.88 g m-1と5.35 g m-1で,禁牧区ではそれぞれ0.56 g m-1と0.18 g m-1であった。<BR> <BR> 4.考察<BR> 植被率が高い禁牧区では浸透能が高く,土砂流出量が少なかった。このことは禁牧によって回復した地表植生が裸地土壌表面を雨滴衝撃力から保護することによって浸透能を維持し,地表流の発生を抑制したことが原因であると考えられた。一方,植被率が低い放牧区では浸透能が低く,すなわち地表流が発生しやすく,雨滴侵食量が多かった。このことは,放牧区では雨滴衝撃による土壌剥離と地表流による運搬の相乗効果により土砂流出量が増大したことを示唆している。最終浸透能と雨滴侵食量は総地表被覆率と関係がよく,土砂流出量は植被率と関係が良かった。すなわち,前者は裸地面積と関連が強く,後者は地表流の分布などの水理特性と関連にしていると考えられる。インターリル侵食は雨滴衝撃による剥離,地表流の分布と土壌表面の特性の相互作用によるものである(Parsons et al., 1994)。KBUの放牧区では浸透能が比較的高く,BGNの放牧区よりも雨滴侵食量が少なかったにもかかわらず,土砂流出量は最も多かった。このことから,強い降雨強度を与えた人工降雨条件下では,過放牧が行われているKBUの土壌はBGNと比べて侵食されやすいことが示唆された。<BR> <BR> 5.まとめ<BR> 人工降雨実験の結果,研究地域では放牧活動によって浸透能が低下し,土壌侵食量が増加していることが示された。しかしながら,比較的短期間の禁牧によって植被率が回復し,土壌侵食量が減少することが分かった。このことは,研究地域の草原が放牧による土地荒廃プロセスから回復しうることを示していると考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680670103808
  • NII論文ID
    130007016282
  • DOI
    10.14866/ajg.2009s.0.102.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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