極東域における冬季低気圧経路と大気循環場との関係

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  • Relationship between winter extratropical cyclone tracks and the atmospheric circulation over the Far East

抄録

1. はじめに<BR>  冬季,極東域においては,西にシベリア高気圧(SH),東にアリューシャン低気圧という西高東低のいわゆる冬型の気圧配置が卓越する.この気圧配置が崩れると,総観規模温帯低気圧(以下低気圧)が極東域を東進する.低気圧は,東シナ海から本州南岸を通るものと,日本海から東北東に進むもの,そして大陸上を東進しオホーツク海に達するものに大別できる(Chen et al., 1991など).極東域の冬季低気圧と大気循環場との関連についてはこれまで様々な研究がなされてきた.しかし,極東域全体について,主要な低気圧経路ごとの低気圧発現数やそれぞれの間の関連性に着目したものはほとんどない.そこで本研究では,低気圧経路をESRI社製「Arc GIS」によって地理情報データ化して解析を行った.大気循環場がどのようなときに,どのくらいの低気圧が,どのような経路で極東域を通過し,どのような長期変動をしているのかを定量的に把握することを目的とした. <BR><BR> 2. 解析手法<BR>  本研究では,1953年~1996年の44冬季(1952/12~1996/2)における地上低気圧を対象とした.北緯20度~60度,東経110度~160度を対象領域とし,『気象要覧』掲載低気圧経路図および気象庁天気図(地上天気図)から低気圧経路データを作成した.なお,対象とする低気圧の定義を統一したことから,対象期間のデータの質はほぼ均一とみなした. 全2,242個の低気圧経路から,緯度1度×経度1度のメッシュ集計をし,低気圧頻度分布図を描いた(Fig. 1).そして,東経140度もしくは135度を通過する低気圧の緯度によって,高緯度側から大陸低気圧(LL)・日本海低気圧(JSL)・南岸低気圧(PCL)として分類した. なお,大気循環場の再現には長期再解析データであるERA-40(ECMWF Reanalysis 40)を用いた.期間は1958年~1996年の39冬季(1957/12~1996/2)を対象とし,北半球全域を対象領域とした. <BR><BR> 3. 冬季低気圧活動の変動<BR>  各月のLL・JSL・PCLの低気圧発現数を月の平均値および標準偏差でそれぞれ標準化した上で,3ヶ月×39冬季(1958年~1996年)の上記3経路における低気圧発現数の時系列に対し主成分分析を行った.第1主成分(EOF1)は,LL・JSLとPCLの逆相関変動を示し(寄与率37.6%),第2主成分(EOF2)はLLとPCL共通の増減変動を説明していた(寄与率34.4%).EOF1スコアの時系列は,12月においてMann-Kendall検定にて有意な増加傾向が示された.EOF2スコアの時系列は,約20年周期の変動が見られ,北極振動指数(AO index)との間に有意な正相関があった.EOF1スコアの増加と,シベリア南部の温度上昇や, SHの弱化との関係性,そして既往研究を踏まえると,特に冬季初頭で顕著な近年の低気圧経路の北上傾向は,地球温暖化の応答である可能性がある. <BR><BR> 4. 冬季低気圧経路と大気循環場との関係<BR>  主成分スコア±1以上の特徴月の大気循環場コンポジット図を作成した.その結果,東欧と中央アジアとの間の500hPa面高度偏差の差異が,東側の温度傾度帯や,ジェットの挙動に影響を与え,極東域でのLL・JSLとPCLの発現差を決めていることが考えられた(Fig. 2).また,極東付近では,EOF2±月の比較から,PCLの発現数にはSHの強弱による擾乱抑制の程度や,北太平洋高気圧から回り込む暖気流吹走域の北上南下の影響が考えられた.JSLが寒冬時に減少しない理由としては,冬季モンスーンによって日本海の収束帯上で発生するメソ低気圧が上層のトラフと結合し,日本海で低気圧として顕在しやすくなる可能性が指摘できる. <BR><BR> 文献<BR> Chen, S.J., Y.-H. Kuo, P.-Z. Zhang and Q.-F. Bai. 1991. Synoptic climatology of cyclogenesis over East Asia, 1958-1987. Mon. Wea. Rev. 119: 1407-1418.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680670126080
  • NII論文ID
    130007016312
  • DOI
    10.14866/ajg.2009s.0.133.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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