玉川学園地域における住民参加型まちづくりの展開

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • The process of making rules for town planning by residents in Tamagawagakuen district, Machida city

抄録

1.問題の所在と研究の目的<br>  近年、まちづくりではソーシャル・ガバナンスによる新たな課題解決の枠組みが注目を集めているが,郊外地域においても、住民発意のルールづくりによって住環境を維持しようとする動きがはじまっている。本研究は、昭和初期に開発が始まり、多様な地区特性をもつに至った玉川学園地域を事例にして、住民発意のルールづくりの過程とその課題について明らかにすることを目的とする。<BR><BR> 2. 対象地域と研究の方法<br>  本研究の対象地域である町田市玉川学園地域は、戦前期の1929年に分譲が開始され、谷を挟む傾斜地に広がる初期分譲地と、戦後の高度経済成長期に開発された周辺の丘陵上の住宅地からなる。こうした地区内の住民特性と物的環境の変遷を明らかにするために、住民基本台帳の人口データ、土地利用データ、および町田市の開発許可台帳を用いて分析を行った。ついで、「まちづくりの会」が玉川学園町内会・自治会連合会の会員を対象にして2009年に実施したアンケート調査結果を分析し、地区内での住民意識の違いを検討した。まちづくり活動の詳細については、2004年に施行された「町田市住みよいまちづくり条例」に基づいて活動してきた住民組織「まちづくりの会」にて参与観察による情報収集を行った。<BR><BR> 3.住宅地の物理的・社会的な多様性<br>  住民基本台帳から地区別人口の年齢構成を把握すると、開発時期の違いが地区ごとの住民の年齢構成に反映されており、世代ミックスや高齢化によって地区間の多様性が強まっていることが明らかとなった。土地利用からみた物的環境の特性とその変化を分析したところ、地域内に残る緑地の多くが宅地へと転換され、特に周辺部での変化が顕著であった。開発許可台帳をもとに学園地域内の開発状況を検討すると、大規模に開発されて以降は新たな開発行為はあまり行われていない周辺部の戸建住宅地と、小規模な改変が継続的に行われている中心部の初期分譲地との違いが明らかになった。また地区全体にわたって集合住宅の建設が進行しており、近年の開発は主に地区の東側で活発化している。もともと初期分譲地と周辺の新規開発地区との間での物的環境の顕著な差異がみられたが、近年の(再)開発はそれぞれの地区内での多様性を拡大していることがわかる。<BR><BR> 4.住民意識の違い<br>  アンケート調査結果を分析すると、居住者は特に近年の開発による街の過密化に付随する住環境の悪化を問題視していた。しかしながら、環境悪化への懸念やルール制定への期待度については、自宅周辺での反対運動や開発行為の有無によって地区間での温度差がみられる。この分析を通して、物理的・社会的特性からみた多様性が、住民意識の差異に一定の影響を与えており、具体的な課題解決を目指した合意形成を難しくしていることがわかった。<BR><BR> 5.「まちづくりの会」の取り組み<br>  「まちづくりの会」は、「玉川学園地域まちづくり憲章」・「まちづくり方針」・「デザインガイド」の3点セットからなるルールとして「地域まちづくりプラン案」を制定することを目指して活動してきたが、このうち憲章のみが2009年に地区内の過半数の住民自治組織によって承認されるという成果をあげた(図1)。しかしながら,会は多様な地区特性がもたらす地理的・制度的な齟齬に直面していた。一定の成果があがったのは、会が地域の住民自治組織との関係を意欲的に構築したこと、また、会とそれが目指すルール自体を独自に都市マスタープラン上に位置づける試みを通じて、実効性のあるルールづくりの基礎を固めたことによる。地区内での多様性を反映して、住民が実行できる合意の段階には一定の限界があることから、主体間の対等な関係を前提としたガバナンスのさらなる進展が期待される。<br>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680670416512
  • NII論文ID
    130007016664
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.268.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ