インドと中国の農産物流通

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タイトル別名
  • Agricultural supply systems of China and India
  • Global commodity chain and domestic commodity chain
  • ーグローバルな商品連鎖と国内の商品連鎖ー

抄録

1.  はじめに グローバリゼーションの下で,かたや「世界の工場」,かたや「世界のバックオフィス」とたとえられる両国は,いずれも良質な労働力と先進国との賃金格差を背景に経済成長を遂げている。同時に,この現象が両国の国内において大きな経済格差をもたらしていることも事実である。本報告では農産物を例にとり,国内の流通体系の変化を明らかにするとともに,「商品連鎖」を鍵概念として,地域間の経済格差とそれに基づく商品の移動という面から検討を行う。具体的にはインド,中国国内における成長を続ける大都市に牽引された農産物,特に生鮮野菜流通の広域化とその背景に焦点を当てるが,それはグローバリゼーションと無関係ではないと考える。グローバリゼーションの下での成長をとげた都市・地域が,国内の野菜流通の広域化の原動力になっているからということだけではなく,国内の産地と消費地の関係に,インド,中国の相対的に安い賃金とそれにより作り出された製品が世界を席巻するというグローバルスケールで認められたのと同じ構図を読みとることができるからでもある。2.インドと中国の農産物流通の広域化 1990年代を通じて農産物流通,特に生鮮野菜類の広域流通が大きく進展した。その背景として野菜生産の伸び,卸売市場の拡充をはじめとした流通機構の整備,グローバリゼーションを背景にした都市部における消費水準の向上などを指摘することができる。 たとえばインドでは90年代を通じて,野菜の生産量は大幅に増加した。また,「Green Revolution」「White Revolution」など一連の食糧政策をうけて,目下「Golden Revolution」が掲げられている。「Golden Revolution」とは野菜や果樹,養蜂などを含む園芸農業の振興を目指すものである。農家に現金収入の増加をもたらすとともに,ウッタルプラデーシュ州のエンドウ豆,マハーラーシュトラ州のタマネギ,西ベンガル州のカリフラワーなど大きなシェアを握る突出した産地が出現している。流通段階ではインド全土の農産物卸売市場を結ぶネットワークの構築を目指したプロジェクト(AGMARKNET project)が進められている。このプロジェクトでは顧客に全国の農産物市況を瞬時に伝えることを目指した作業が進められ,第一期プロジェクトでは全国670の卸売市場が対象となった。ネットワークの構築による情報の開示は公正な市場取引を保証する上で重要な役割を果たし,従来型のメディアによる市況情報の制約を大きく覆しつつある。最後に都市における消費水準の向上,中間層の出現は多くの指摘するところであり,その旺盛な消費が需要を支えているものと考えられる。たとえばデリーの野菜市場の動向からはカリフラワーの入荷における端境期が消滅しつつあることが読みとれた。3.2つの商品連鎖 このような状況をどのように捉えるのかという問題が残る。インドや中国で生み出される商品やサービスが,先進国の市場に流れ込むことは,現実問題として両国に相当の経済成長をもたらしたことは事実であろう。同様に,インドや中国の相対的に経済水準の低い農村部から,成長を謳歌する都市部への農産物の出荷は農村部に現金収入をもたらし,国内の農産物流通の拡充は富の分配装置として機能するといえるかもしれない。その一方で,先進国経済への依存を高めることに対する警戒感も存在する。また,これらの国で生産される商品の多くが買い手主導の連鎖(Buyer driven commodity chain)に位置づけられ,商品やサービスの生産者・供給者の置かれる立場は脆弱である。買い手主導という商品連鎖の特徴は,国内の農産物流通においても同じで,生産者の立場の脆弱性も同様であると考えられ,こうした側面に対する充分な検討もなされるべきである。その際,グローバルな商品連鎖の研究においてなされた議論は,こうした国内スケールあるいはさらに小規模な地域的スケールにおいても,有効な枠組みを提供するものと考える。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680670523136
  • NII論文ID
    130007016721
  • DOI
    10.14866/ajg.2004f.0.1.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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