日本島河川における長期流況データベースの作成とその応用事例

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タイトル別名
  • The primary report on a Long-term flow-regime database of Japanese rivers and its application

抄録

はじめに近年,いわゆる「緑のダム」問題の解明のために,森林小流域における長期流量観測データから,渇水流量の長期年々変動と林相変化との関係を検討する試みが行われている.しかし,そこで明らかになったのは,渇水流量はその生起した直前の期間における降雨量の変動パターンによってその年々変動が強く規定されていて,流域内部の変動をそのまま現しているのではないという事実であった(蔵治・芝野,2002).一方,真板(1994)は大井川支流の流域で,各年の渇水流量と過去の年降雨量の間に7_から_12年のラグをもつラグ相関を見出した.筆者らは蔵治および真板の手法を100km2程度の流域面積をもつ8つの山地流域について適用した結果,真板の手法が適合した河川流域は見出せなかったが,このような大流域においても蔵治の結果と同様に渇水流量生起日直前の一定期間における降雨量が渇水流量を強く規定する場合があることを見出した(杉原ほか,2004).ただし,現段階では同様の解析事例が少なく,様々な流出特性や流域の特徴がどのようにこれらの手法の適合・不適合を決めているかは明らかとなっていない.長期渇水流量データベース渇水流量の経年変動に関する知見が十分得られていない原因の一つに,流量データの整備(デジタル化およびQC)の遅れがある.近年,国土交通省が展開している「水文水質データベース」(http://www1.river.go.jp)は,これに対する一つのソリューションである.これは,同省が管轄する1500点以上の流量観測点の日流量データを無償で公開している.これまで研究で多く使われてきた「流量年表」(地点数は約370)に比べると,より山地源流域に近い観測点が多く加わっているのが特徴である.このほかに,筆者らは,これも河川水文学研究で多く用いられてきた多目的ダム管理年報(ダム数約340)のデータアーカイブを進めており,大半の作業はすでに完了した.これに戦後すぐの調査を基にした「流量要覧」のデータを加えて,Comprehensiveな渇水流量データベースを作成している.長期渇水流量データベースの応用例図1はこのデータセットを用いて,北海道の河川流量観測点について,渇水流量経年変化時系列のトレンドを解析したものである.図1a,1bはデータの終了年度が8年異なるように設定したものであるが,これだけの違いでも両者の間には大きなトレンドの差異が認められる.このことから,10年スケールの変動によって渇水流量のトレンドが大きく左右されることがわかる.ただし,それが気候変動によるものか,貯水池操作や利水に関する政策の変更によるものかは明らかではない.ここで、図1aを見ると,増加・減少の傾向は地域的にまとまって認められる.これから,ここで示した10年スケールの変動は,地理的にランダムに起こるのではなく,特有の空間スケールをも持つ可能性を示唆している.これらの変動特性をより詳細に明らかにすると同時に,国土数値情報や気候値メッシュデータ・レーダーAMeDASなどの近年整備されてきた流域条件情報との対応を明らかにすることが今後求められる.引用文献蔵治光一郎・芝野博文.森林の成長が渇水時流出量に及ぼす影響―東京大学愛知演習林72年間の観測結果―.第6回水資源に関するシンポジウム論文集,615‐620,2002杉原晴佳・安形康・大瀧雅寛.日本島山地河川における季節別渇水比流量の経年変化とその規定要因_-_特に降水特性に着目して_-_.水文水資源学会2004年度学術発表会要旨集.印刷中.眞板秀二(1994):大井川上流域における渇水量と降水特性との関係.ハイドロロジー(日本水文科学会誌),24,47‐54.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680670617856
  • NII論文ID
    130007016861
  • DOI
    10.14866/ajg.2004f.0.159.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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