沖縄県における観光の国際化と課題

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  • Internationalization of Tourism and Problems to be Solved in Okinawa Prefecture

抄録

国際観光は国内観光とは異なり、言語・歴史・社会・文化などの背景の異なる主体相互の接触という側面も持っている。また、外国人観光客自体が極めて多様性に富んだ存在であることを忘れてはならない。本研究においては、わが国の都道府県の中でも、特に経済に占める観光産業の比重の大きな県である沖縄県を取り上げ、同県における観光の国際化の現状と課題について、より訪問する外国人観光客に近い立場から検討する。沖縄県を訪問する外国人観光客はSARSの影響を受けた2003年前後に一時的に大きく減少し、その後は持ち直しつつあるものの、わが国を訪問する外国人観光客にとっての目的地としての重要性は、各都道府県の外国人観光客訪問率などから見た場合、確実に低下している。  続いて、外国人観光客による沖縄観光について、韓国人観光客および台湾人観光客を例に比較検討を行った。ここでは韓国および台湾の大手旅行会社が主催する沖縄県への団体ツアーについて、主に訪問観光地や食事内容の検討を行った。その結果、韓国人観光客の訪問率の高い観光地は那覇市周辺のみならず沖縄本島の南部や北部にも多く分布するのに対し、台湾人観光客は主に那覇市とその周辺にある大型小売店や、沖縄と台湾や中国大陸との文化的交流を示す観光地の訪問率が高い。また、台湾の団体ツアーにおいては韓国の団体ツアーよりも沖縄の伝統料理が提供される回数がはるかに多い。  さらに両者の海外旅行における沖縄県の位置づけにも少なからぬ相違が見られる。韓国人観光客の場合、沖縄県への訪問数が増加したのはここ数年であり、沖縄の知名度はまだかなり低い。これに対して台湾は沖縄からの距離が韓国よりもはるかに近く、また長年にわたる歴史的・文化的交流が存在するために、沖縄の知名度は韓国よりもはるかに高いが、台湾において海外旅行が一般化し、台湾とは自然条件や歴史的・社会的条件が大きく異なる場所を訪問することが海外旅行の大きな魅力となったことで、沖縄への旅行が台湾人観光客にとって国内旅行とほとんど変わらない意味しか持たなくなったことは否定できない。とはいえ、台湾において2人の女性作家による沖縄・九州方面への旅行記がベストセラーになったこともあり、一方では台湾から沖縄への個人旅行者が増加する傾向も見られる。  以上のように、同じ外国人観光客でもその国籍により、たとえ同じ場所に対してでも、その評価や訪問先などには大きな相違が見られることが明らかになった。このような多様な外国人観光客を今後も引き付けるためには、沖縄県が海外からの観光客、特に今後増加することが予想される個人旅行者にとってより魅力にあふれた場所であることが不可欠であることは言を待たない。そのための課題としては、公共交通機関、特に個人旅行者が自由に見学時間を設定できる観光バス路線の創設や沖縄の伝統的な食文化を体験できる博物館の設置などが最も重要であると考えられる。  国際観光は、たしかに短期間に多くの経済的利益を得ることは極めて困難ではあるが、外国人観光客という異質の視点を通して自らの場所を見つめ直し、より魅力のある観光地として成長していく機会を得る手段としての価値は十分に認識されてもよいと思われる。外国人観光客にまで彼らの多様性を無視し、使用金額の上昇を絶対視した対策に終始することは将来、観光産業そのものの衰退にもつながりかねない危険性を有している。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680670704256
  • NII論文ID
    130007017005
  • DOI
    10.14866/ajg.2010f.0.18.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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