アニメーション産業の国際分業と企業間取引関係の構造

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書誌事項

タイトル別名
  • The international division of labor and transactional relationship of Animation industry
  • Focus on the relationship of international division of labor of Japan-Korea and Japan-China
  • ―日韓,日中の国際分業関係に注目して―

抄録

本発表の目的は,日本を中心としたアニメーション産業の国際分業の構造的特徴から,地域内に形成されるアニメーション制作企業の取引関係の構造を考察することである。<br>  日本アニメーション産業は生産の過程で国際分業をしている。主要な分業先として,韓国ソウル,中国上海および無錫が挙げられる。東京に立地するアニメーション制作企業に対するアンケート調査によると,韓国制作企業との取引は1980年代から,中国制作企業との取引は1990年代後半から見られる。日本制作企業と分業先企業との資本関係をみると,韓国制作企業は資本関係のないものが多い。一方で,中国制作企業の中には日本制作企業の生産部門として出資を受け設立したものが見られる。また,日本制作企業が分業先制作企業との取引において重視する項目については,いずれの分業先制作企業に対しても,短時間での生産を重視している。また,韓国の分業先制作企業に対しては短時間での質の高い製品を生産することである。一方で,中国の分業先制作企業に対しては短時間での安価かつ大量の製品生産が可能なことである。<br>  分業先との短時間の取引を達成するためのひとつのシステムが,「協会便」といわれる共同輸送である。「協会便」による製品の共同輸送では,製品は日本の当番企業に集荷され,当番企業担当者が一般旅客便によって,直接韓国,中国の制作企業まで持参する(行き便)。着空港には,荷受当番の韓国,中国企業担当者が待ち受け,日本側企業の担当者と製品を自社に輸送する。「協会便」輸送に参加している企業は自社宛ての製品を当番企業まで取りに来る。韓国,中国の制作企業は日本へと戻る便(戻り便)に仕上がった製品を随時引き渡す。戻り便運行の際には,韓国,中国荷出し当番企業に集荷され,日本当番企業担当者が日本に持ち帰る。日本に到着した製品は当番企業に運ばれ,他の参加企業が引き取りに来る。生産現場では,このような取引がほぼ毎日なされている。<br>  また,取引の際に韓国制作企業および中国制作企業に対し重視する項目が異なる点については,それぞれの国の制作企業の受注する工程の違いが要因のひとつと考えられる。韓国制作企業が受注する工程をみると「原画」,「動画」,「仕上げ」といった生産部門のほか,「コンテ」や「レイアウト」といった創造部門の一部を担う。一方で,中国制作企業の場合は「動画」,「仕上げ」を中心として,労働集約的な生産部門の末端工程に特化している。<br>  韓国制作企業,中国制作企業はともに日本制作企業の要求に応えるための努力をしている。韓国制作企業の場合,近隣の同業他社との間に,技術補完,労働力補完を目的とした取引関係がある。それは,ひとつには,日本制作企業の発注量が不安定であり,柔軟な対応が求められるためである。また資本関係にない日本制作企業との信頼関係を築き,取引を継続するためには,多少無理のある仕事であっても受注しなければならない。そこで,近隣の同業他社との相互補完的な取引関係を結び,対応可能な取引量,取引内容に幅を持たせている。一方で中国制作企業においては,日本制作企業の出資や資本提携によって経営される企業が多い。それらの企業においては,日本制作企業との信頼関係よりもむしろ,地方都市政府の優遇措置,安価かつ大量の労働力の囲い込み,労働規制の緩さを利用して,労働集約的な工程の生産量を確保することが重視されている。<br>  このような分業構造から,制作企業の取引関係が形成されている。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680670818432
  • NII論文ID
    130007017117
  • DOI
    10.14866/ajg.2009s.0.51.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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