田園空間博物館による地域づくりの展開とルーラル・ガバナンス

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タイトル別名
  • Local Development based on Coutryside Museum and Rural Governance
  • Case Study of Kita-Harima, Hyogo Prefecture
  • 兵庫県の「北はりま田園空間博物館」の事例から

抄録

_I_.はじめに  近年の農村、特に中山間地域では、地域振興に新たな動きがみられる(岡橋、2008)。一つは自然や文化を含む多様な地域資源を活用し、産業融合的に地域経済の振興を図る動き、二つは、行政主導ではなく、民間の多様なアクターのネットワークが主導する動きである。本研究では、このような特徴を示す事例として、田園空間博物館による地域づくりを取り上げ、その地域振興上の特徴と意義を検討する。対象とするのは、NPOによる住民主導の運営で成果をあげる兵庫県の北はりま田園空間博物館であり、ルーラル・ガバナンス(農村協治)の意義を示す好例と言える。 _II_.田園空間博物館の展開  田園空間博物館は、農林水産省の補助事業である田園空間整備事業によって整備されてきた。平成10年度に着手され、平成20年度までに全国57地区で事業が実施された。未だ点的ではあるものの全国的な広がりをみせている。同事業における田園空間博物館とは、農村にある景観、自然、伝統、文化などの様々な魅力ある事物を博物館の展示物に見立て、農村地域を一つの「屋根のない博物館」として保全活用する取り組みである。これは、1960年代末にフランスで発案され、その後世界的に知られるようになったエコミュージアムの考え方に近い。確かに、導入・案内を担当する「コア施設」、地域資源を活用した「展示施設」(サテライト)、そしてそれらを結ぶ「散策道」という構成には、明らかにその影響が認められる。そして、このような整備のコンセプトは、上述した今日の農村地域振興の動きにも合致している。 _III_.北はりま田園空間博物館による地域づくり  北はりま田園空間博物館は、平成10年度に上記事業に採択され、平成15年度までに総額13億円の投資が行われた。他地域と同様、用水路、集落道などの諸施設が整備された。このようにハードウェア事業が重要な位置を占めるが、それが地域振興に資するかどうかは、その後の運営のあり方にかかっている。  北はりま田園空間博物館では、「コア施設」は道の駅の一角に設けられている。そこでは、案内機能とともに、特産品の開発・販売にも力が入れられている。さらに206に及ぶ多数の「サテライト」があり、これにより地域全体に効果が波及するように工夫されている。このような形で地域経済の振興を図り、博物館も事業収入を確保することで、行政依存でない運営が可能となっている。もちろん、このような活動内容は本来のエコミュージアムにはほど遠いが、地域振興という点では大きな成功を収めている。それを可能としたのは、運営を担うNPO法人の設立であった。 _IV_.北はりま田園空間博物館にみるルーラル・ガバナンス  全国的にみると田園空間博物館の設置・運営は行政主導で行われているものが多い。そうした中で本事例が住民主導を実現したのは、まず、事業主体の兵庫県(特に北播磨県民局)が初期から住民への啓蒙普及に注力し、充職(あてしょく)による住民の動員ではなく、自主的な住民参加を呼びかけたことが大きい。その結果、地元のボランティアグループの参加が得られ、住民が博物館づくりのテーマや視点を自分で考えるようになり、そこから北はりま型というべき独自の活動が生まれた。このような活動に持続的な基盤を与えたのが平成14年のNPO法人設立であった。このNPOは人材面でも恵まれているが、それにはこの地域の中心都市である西脇市の存在も大きいように思われる。 _V_.結び  田園空間博物館は地域の自然や文化など多様な資源を発掘し活用する点で、農村地域振興に資する可能性をもつ。しかし、その成果の如何は、事業終了後の運営のあり方にかかっている。多くの他の事例が行政主導の性格を有する中で、本事例はNPOが運営の核となり多くの成果をあげてきた。今後の農村地域振興においては、従来型の行政主導であるルーラル・ガバメント(農村統治)から、公民パートナーシップによるルーラル・ガバナンス(農村協治)への移行が重要なポイントとなるように思われる。 文献  岡橋秀典(2008)知識経済化時代における中山間地域の新展開-東広島市福富町竹仁地区の事例を中心として-、地理科学63、194-204.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680670835456
  • NII論文ID
    130007017153
  • DOI
    10.14866/ajg.2009s.0.71.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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