景観形成作物によるルーラリティの創造

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タイトル別名
  • Inventing Rurality with Amenity Crops
  • Geographical Studies on the Commodification of Japanese Rural Spaces, Part 6
  • 商品化する日本の農村空間に関する調査報告(6)

抄録

1.はじめに  都市化に伴い,農村は身近な存在ではなくなりつつある.現在の子どもたちや若者にとって,2世代遡っても,非農家であることが少なくない.都市住民にとって,「ふるさと=いなか=農村」という構図がくずれ,農村は非日常的空間となった.その結果,農村はそれ自体で価値を有することになった.こうした価値は,本来,外部経済として把握され,また,空間的に非排除性と非競合性を有するため,農村景観は公共財的性格をもつとされる.しかしながら,都市住民にとって,農村にアクセスしなければ農村景観から得られる価値を享受することは直接的にはできない.したがって,都市住民にとって農村景観の公共性は低く,市場で交換される商品としての性格が強い.  都市住民にとって,農村であればどこでも同一な価値を有するのではない.眺望性や歴史性をもっていたり,癒しの効果が期待されるような一部の空間が都市住民にとって価値を有し,ツーリズムの対象となる.したがって,そのような特異性をもたない農村で,商品として農村景観を都市住民に販売するとすれば,差別化するためにルーラリティの創造を図る必要がある.そこで,本研究では,商品化した農村景観がどのように創造されるのかということを,兵庫県佐用町南光地区(旧南光町)を事例として考察する.南光地区は合併以前から景観形成作物としてひまわりを導入し,観光客を誘致するとともに,ひまわり加工品を特産品として販売している. 2.景観形成作物導入の背景  旧南光町は,米の生産調整が行われ米価が低迷している現在においても,米が基幹作物である.生産農業所得も半分近くが米によるものである.南光地区の一部は,中山間地域に位置づけられ,農業従事者の大半は65歳以上の高齢者で,しかも零細経営である.景観的にも農地の大部分で水田が広がり,旅情を誘うような牧歌的な農村でもない.旧南光町は,日本農村の縮図とも言えるような地域である.  旧南光町で水田にひまわりが最初に植えられたのは1990年のことであった.当初は,ひまわりを利用して地域振興を図るという明確な意図はなく,圃場整備事業に伴うつなぎ作物という位置づけであった.ひまわりは,日本人にとって夏の風物詩として馴染み深いが,団地で一斉に開花している景観は希少性を生み,マスメディアで取り上げられた.その後,観光客が多数訪れ,景観形成作物として,水田の転作奨励金等の交付が得られ,旧南光町が栽培を支援することで,ひまわり栽培が拡大した.2008年現在,7集落(8地区)の水田で29.7haが栽培されている. 3.ひまわり栽培の現状と収益性  ひまわりは,米の転作作物として集落内でブロックローテションにより栽培されている.旧南光町の転作面積は48.9%にも達し,個別の調整が困難である.ひまわりの収益性を聞き取り調査からモデル的に試算すると,10a当たり70,280円の収入に対し,支出は21,770円となり,5万円近くの所得が得られ,収益性は極めて高い.しかしながら,粗放的な栽培で,収入の大半は交付金・助成金に依存し,観光客から直接得る収入は少なくなっている.また,集落によって条件が異なるため,収益構造の地域差も大きい. 4.まとめ  元来,ひまわりは水田にあまり適合しない作物であり,国際的にみて単収は極めて低い水準にある.しかし,多様な加工品を販売することで,約4,000万円の売り上げは,農村の特産品販売としては決して少ない水準ではない.年によって変動があるが,約10万人の観光客も集めている.旧南光町のひまわり栽培は,地域振興としては一定の成果をおさめている.ひまわり景観は,高齢者による零細経営という地域特性,低投入で栽培することが可能であるという作物特性,さらに米の生産調整という政策特性によって形成された.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680670842496
  • NII論文ID
    130007017168
  • DOI
    10.14866/ajg.2009s.0.81.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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