原発事故後の牧草地再生プロセスにおける畜産経営の対応

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タイトル別名
  • Grassland renovation by dairy and beef cattle breeding farmers after the nuclear power plant accident
  • -栃木県那須地域を事例に-
  • A case of Nasu region, Tochigi Prefecture

抄録

本研究では、福島第一原発事故後の栃木県那須地域における牧草地除染の実施状況と、自給飼料の利用自粛がもたらした農家レベルの諸問題を明らかにし、飼料安全性確保のための課題を考察する。 <br> 栃木県では、牧草の放射性物質モニタリング検査の結果にもとづき、県内6市町(那須町、那須塩原市、矢板市、塩谷町、日光市、鹿沼市)で2011年・2012年の2年間にわたり、永年生牧草(多年生のイネ科牧草)の利用自粛を余儀なくされた。環境省除染対策事業(実施主体は市町村)による県内の永年生牧草地の除染は2012年9月から開始され、反転耕・深耕と砕土・整地による草地更新と、カリウム施肥により牧草への放射性セシウム移行を低減する手法が採用された。農地土壌中の放射性セシウム濃度が他市町よりも相対的に高く、永年生牧草地の利用が優勢である那須町では、県内最大の約930ha(2015年5月現在、県推計)の永年生牧草地(公共牧場を除く)で除染が行われた。<br> 原発事故発生当時、那須塩原市および那須町の調査農家(酪農経営8戸、肉用牛繁殖経営2戸)では、前年の秋に播種した単年生のイタリアンライグラスと、多年生のオーチャードグラスを主体とする混播牧草が汚染された。国が方針を示した放射性セシウム濃度8000Bq/kg以下の汚染牧草の圃場還元については、ロールに整形した牧草を、発酵させて圃場に広げる作業の負担が過重であることなどを理由に、途中で断念する調査農家が多く、2011年、2012年産のロール牧草が大量に残されている。<br> 牧草地の利用自粛の間、調査農家では代替飼料となる外国産牧草の購入・給与を行った。賠償金支払いまでの経済的負担に加え、酪農家では受胎率の低下や、第四胃変位や難治性の乳房炎を発症して廃用となる例が増え、代替飼料の利用が牛の健康および農家経済に少なからぬ影響を及ぼした。 <br> 那須町の調査農家では、①圃場の条件、②牧草播種の時期、③機械所有の個別事情に応じ、環境省除染対策事業・東電損害賠償請求のいずれか、または両者を併用して除染が行われた。実際の除染作業では、前植生の処理(刈り払いと除草剤散布)、土砂の流出を防ぐための土留めなど、環境省事業で補助対象外とされる工程が必要であった。圃場条件に適した工法で自力施工し、前処理や、耕起によって表出した石礫の除去などの追加作業にかかる工賃を東電へ請求する農家も少なくない。<br> 一方、単年生のイタリアンライグラス(またはライ麦)とデントコーンの二毛作を行っている那須塩原市の調査農家では、既定の除染スキームにはよらないものの、吸収抑制剤のカリウムやゼオライトの散布、汚染牧草を鋤込んだ圃場の休耕と複数回の耕起、圃場の防風林隣接部分の作付制限など、牧草の放射性セシウム濃度を低減する対策を自主的に行っている。<br> 給与前検査の結果が基準値以下であっても、セシウム濃度に応じて牧草の給与量が制限される状態は続いている。飼料の安全性確保のためには、再生した飼料資源の適正管理を地域全体で励行することが求められる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671095168
  • NII論文ID
    130005635611
  • DOI
    10.14866/ajg.2017s.0_100161
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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