ブラジル・セルトンの水文環境と人間活動(6)
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- 羽田 司
- 筑波大・院
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- 山下 亜紀郎
- 筑波大
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- 宮岡 邦任
- 三重大
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- 吉田 圭一郎
- 横浜国立大
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- Marcelo Eduardo Alves Olinda
- IF Sertão Pernambuco
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- Armando Hideki Shinohara
- ペルナンブコ連邦大
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- Frederico Dias Nunes
- ペルナンブコ連邦大
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- 大野 文子
- ペルナンブコ連邦大
書誌事項
- タイトル別名
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- Hydrological environment and human activities in Sertão, Brazil (6)
- ―世界金融危機後の灌漑果樹生産地域の変容―
- - Changes in the irrigated fruit production areas after the global financial crisis -
抄録
1.はじめに<br> ブラジル北東部(ノルデステ)の熱帯半乾燥地域(セルトン)を流れるサンフランシスコ川中流域には,20世紀後半以降の大規模灌漑プロジェクトにより灌漑農業地域が形成され,1990年代以降は多品目の果樹が生産されている.ここで生産されるマンゴーおよびブドウはブラジルの他の産地に比べ輸出志向が強いのが特徴である(山下・羽田2016).しかし,2007年に始まる世界金融危機による国際的な不況の煽りを受け,地域の農園をはじめとする農業関連主体では経営転換が要求されることとなった.そこで本研究では,世界金融危機に対し農園や流通主体がいかなる対策を講じたのかを検討することで,サンフランシスコ川中流域に発展した灌漑果樹生産地域の変容を明らかにする.<br>2.サンフランシスコ川中流域における灌漑果樹農業の発展<br> 1966年に「サンフランシスコ川中流域灌漑基本計画」が策定されるとペトロリーナおよびジュアゼイロには国家主導で灌漑農業地域が形成された.灌漑事業が進行するに伴い完成した農地ではマメやトウモロコシ,トマトなどの単年性作物が積極的に導入されてきた.しかし,1980年代末になると激しい連作障害に見舞われたことを受けて,連作障害が発生しにくい永年性の果樹類,とくにマンゴーとブドウへの転換が進んだ.こうした果樹を中心とした農業は現在まで継続しており,マンゴーとブドウのほかグァバ,バナナ,ココヤシ,アセロラなどの熱帯性の果樹も多くみられる.中・大規模な農園ではマンゴーまたはブドウに特化した農業経営もみられるが,小規模な農園では複数の果樹作物が栽培されており,果樹複合経営となっている.<br>3.世界金融危機への対応と果樹農業の現在<br> 世界金融危機により大きく経営転換が図られたのはブドウの輸出実績のある農園や流通主体であった.輸出用果樹を生産する農園は中・大規模な農園が多く,輸出方法としては①農園が直接海外の取引先に出荷する場合と,②産地内の集出荷組合や輸出業者を介して出荷する場合がある.世界金融危機に対する基本的な対応として,輸出割合を減少させる一方,国内流通割合を高めている.加えて,ブラジル国内市場では稀少な海外新品種を,ロイヤリティを払ってでも栽培することで収益を高める工夫がみられる.こうした新品種の導入は輸出方法が①のような農園において迅速に実施された.これは主に園主による意思決定のみで新品種の導入が決まるためである.一方,②のような農園では,産地内の集出荷組合や輸出業者といった組織による意思決定と,自農園による意思決定が必要となるため①よりも対応が遅れている.<br>4.おわりに<br> 本地域の果樹農業は世界金融危機を契機にブドウを中心に輸出割合を減じながら国内市場で有利に販売できる海外新品種が導入されている.しかし,こうした新品種は小規模な農園では採用されておらず,今後いかに地域に普及していくのか注視する必要がある.また,導入が進むブドウ新品種は収穫が年2回の品種が多く水使用量が増加している.少雨による深刻な水不足の中,現在のような農業経営の持続可能性について今後検討していく必要があろう.
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2017s (0), 100133-, 2017
公益社団法人 日本地理学会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680671106560
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- NII論文ID
- 130005635592
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可