グローバル化に伴う起業家活動および農村システムの変容

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タイトル別名
  • Entrepreneurial activities and transition of rural system under the globalization
  • -ルーマニア・ムレシュ県の有機農場を事例に-
  • A case study of an organic farm in Mureş County, Romania

抄録

■はじめに:研究の目的 <br>民主化から20年以上が経過したルーマニアの農村地域において、さまざまな担い手による起業家活動が見いだされるようになっている。国内農家の9割以上を占める自給的もしくは半自給的な小規模農家の中から、起業家として活動する事例をとりあげながら、先進的な起業家により変容しつつある農村システムの諸相を明らかにすることを目的とする。<br><br>■研究の背景と事例地域概観 <br>ルーマニアは1989年の革命後、大きな変貌を遂げることとなった。第二次大戦後以降の共産主義時代に国有化された農地の多くは、2000年代初頭までに元の所有者へ返還される等した結果、民有化されている。2007年1月、ブルガリアとともにEUに正式加盟し、農業分野では共通農業政策(CAP)の元、農業施策が進められている。本研究で主な事例地域として取り上げるムレシュ県は国内中央北部に位置しており、県面積の約61%が農地であり、農業は地域経済の重要な地位を占める。また、森林が県全体の約31%を占め、豊かな景観をもたらすとともに、経済的な価値の高い資源として重要である。■グローバル化に伴い現れた様々な起業家活動 トランシルヴァニア地方の農村もまた、小規模農家が大勢を占めてきたが、2000年代半ば以降、自給的で小規模な農業経営を生活の基盤にし、さらに発展・拡大させる形で起業活動を行う起業家が現れてきたことがわかった。2014年8月にトランシルヴァニア地方南部のムレシュ県とブラショフ県で実施した調査により、農家から始まった起業家活動の具体例として、自宅の一室でレストランを運営する60代夫婦、祖父の農地を受け継ぎ、宅内施設で農産加工を始めた30代女性、自宅で畜産経営を行いながら夏場はペンション管理者を兼務する30代女性などが確認できた。<br><br>■先進的な起業家がもたらす農村システムの変容<br>本研究では、環境保全型の農業活動に着目し、ムレシュ県南部の有機農場Tの事例を紹介しながら、変容する農村システムの諸相を検討する。 有機農場Tは40代の夫婦が経営し、2000年代後半に彼らの居住する集落でドイツの環境NGOの主導で始まった有機農場づくりを契機に有機生産に関わることになった。農場の経営は2009年にNGOから夫婦に継承され、先祖から受け継いだ農場と合わせ、若手農業者向けの支援も受けながら経営基盤を整備してきた。有機生産に関する理念に共感し、現在もドイツの団体よりEU認証を取得している。経営は野菜、バラ、飼料作物、果樹、麦類などの生産と畜産を組み合わせ、さらに有機加工食品も製造する。夫婦の他に2つの家族、パート労働者2名、季節労働者、ボランティア(地元の若者及び高齢者・国際NGO等に参加する外国の若者)が農場支える。 ルーマニアの農家の多くは本来的に農薬や肥料を多用する農業経営はあまり行われていないが、有機農場Tの集落でも認証を取得する形での有機生産について十分な共感が得られていない現実がある。理念として有機への共感を生むだけでなく、例えば経済的に有利で魅力があることも重要であると捉えており、夫は地元での啓発・普及活動に従事しながら、有機農業の意義や将来性をアピールすることで、農村に若者や退職者を惹き付け、将来的な農村の持続性に繋げることを目指している。 ムレシュ県やブラショフ県では、起業家らを支援する国際NGOの果たす役割が大きく、また上記に紹介した起業家は国内外の農村志向の人々を惹き付けていた。ライフスタイルの充実を重視する生き方が共感を生んでいること等による、農村の持続性への影響を今後検討する。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671161216
  • NII論文ID
    130005489915
  • DOI
    10.14866/ajg.2015s.0_100237
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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