長野県白馬村八方尾根スキー場周辺地域におけるインバウンドツーリズムの発展

DOI
  • 小室 譲
    筑波大学大学院 生命環境科学研究科 地誌学分野

書誌事項

タイトル別名
  • Development of inbound tourism around Happo-one ski area, Hakuba village, Nagano

抄録

1.序論 <br> 2003年の観光立国宣言以降,政府の積極的なインバウンドツーリズム施策に伴い,訪日外国人客数は約521万(2003)から1,036万人(2013)へ増加している(日本政府観光局「JNTO」).しかしながら観光産業が抱える慢性的な課題として,出国日本人数に対する訪日外国人客数の大幅な赤字が指摘でき,更なる訪日外国人客数獲得のためには各観光地における外国人客への受入れ態勢強化が急務である.2000年代に入り,北海道のニセコに端を発した豪州客を中心としたスキーブームは,近年では白馬や野沢,さらに妙高や蔵王といった幾つかの本州のスキー場においてもみられる.本研究では,長野県白馬村の八方尾根スキー場周辺地域におけるインバウンドツーリズムの動向を分析し,ツーリズムの発展に伴う変容と発展の要因を明らかにする事を目的とする.併せてインバウンドツーリズムの発展に伴う新たな地域課題について検討したい. <br>2.インバウンドツーリズムの動向 <br> 村内最大規模を誇る八方尾根スキー場は, JR大糸線白馬駅から西へ2km程度進んだ北アルプス唐松岳の東斜面にあたる.本研究では,この八方尾根スキー場およびスキー場の麓に位置し,60年代からのスキー観光拡大期にスキー場の宿泊地としての性格を強めた和田野,八方,エコーランドの3地区を研究対象地域とする.2002年に0.3万人であった村内外国人客数は,2011年には5.6万にまで急増しており,また世界最大の旅行口コミサイトTrip adviserの「ベストディスティネーション(観光地)トップ10」において国内第6位の人気観光地に選出されるなどインバウンドツーリズムの発展が顕著である.<br> 3.インバウンドツーリズムの発展に伴う変容 <br> 泊食分離と長期滞在を嗜好する外国人スキー客の増加に伴い,スキー場や宿泊施設,さらに飲食施設や娯楽施設では受入れ態勢の強化が進められている。特にキッチン完備の長期滞在施設や異文化体験型施設など従来みられなかった新たな形態の施設が拡充する一方で,外国人スキー客の受入れの有無により施設間,地区間において格差が増大している点が課題として明らかとなった.<br> 4.インバウンドツーリズムの発展要因<br> ツーリズムの発展要因として,(1)外国人客の直接的な来訪動機となるスキー場の規模や雪質に加えて,民宿発祥の地に根付く「もてなしの文化」による宿泊施設の固定客確保や残存する民宿や温泉といった地域観光資源の存在,(2)70年代以降のペンションブーム期に移住した和田野地区の宿泊施設を母体とする民間主導の外客誘致団体による発地国へのプロモーション活動や素泊まり客に対応した外国人のための飲食店ガイドブック作成と二次交通の拡充,(3)ゲストのホスト化により在住外国人が自ら旅行代理店や空港バス,宿泊施設など外国人スキー客に対応したサービス(事業)を創出している点に大きく分けられる.<br> 5.結論  <br> 外国人スキー客の急増は受入れ側である観光地の施設や地域に変容をもたらした.同時にインバウンドツーリズムの発展は新たな地域的課題を与え,ゲストの増加に伴う治安悪化や騒音問題,また施設間・地区間格差の増大やゲストのホスト化に伴う不動産投資や景観問題など,外国人客(住民)と既存住民の共存・共生が求められている. <br>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671163776
  • NII論文ID
    130005473717
  • DOI
    10.14866/ajg.2014s.0_100167
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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