条件不利地域における地理的デジタル・デバイドに対する政策的対応

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  • Geographical digital divide and the governmental policies in handicapped areas

抄録

1.背景と目的  情報技術が社会経済の基盤的存在としてその意味を増大させていく中で、それに即応できる人々と取り残されていく人々とが二極に分かれていくデジタル・デバイドの問題が危惧されている.地理学的視点に立てば,デジタル・デバイドの存在がとりわけ注目されるのは,中山間地や離島などの条件不利地域である.通信事業者にユニバーサルサービスが事実上義務づけられている電話回線網を利用するナローバンドが中心であった90 年代までは,条件不利地域のデジタル・デバイドは徐々に解消されてきた.しかし,2000 年頃から一般に普及し始めたブロードバンドでは,サービス対象の範囲が通信事業者の選択に委ねられているために,地形が急峻であったり,人口が希薄であったりして事業採算が難しい条件不利地域ではネットワーク・インフラの整備が進みにくい.こうした事態は国政レベルでも認識されており,地理的デジタル・デバイド解消のための政策がとられ,結果的に,ブロードバンド整備は急速に進んでいる.もちろん,これらの政策は自治体レベルでの整備を促進するための補助事業であり,ある程度の事業費を自己負担してでも,地域の情報化を進めるという自治体の政策的判断を前提としている.  本研究では、条件不利地域を抱える自治体における,ブロードバンドの普及期以降の情報インフラ整備政策の内容とその背景を把握・検討しようとした. 2.方法  本研究では,全国の市町村に対するアンケート調査とヒアリング調査を併用しているが,本発表ではそのうちアンケート調査の結果を中心に報告する.アンケートは2009年11月よび2010年6月に,三大都市圏(2005年国勢調査における 関東・中京・京阪神大都市圏)内および政令指定市を除く,全国の1,326市町村の「IT担当者」宛に調査票を郵送し,郵送ないしは電子メールでの回答を求めた.最終的な回収数は453市町村,回収率は34.2_%_であった. 3.結果の概要 (1) ブロードバンド・ゼロ地区  回答市町村のうち,ブロードバンドがまったく利用できない(ブロードバンド・ゼロ)地区は存在しないとしたものは53.3_%_,ブローバンド・ゼロ地区が1_%_以下(住民数ベース)としたものは18.9_%_であり,ブロードバンド環境の整備が大多数の市町村で進んでいることは事実である.ただし,8.9_%_の市町村が,3割以上の地区でブロードバンドが利用できないと回答しており,地域によってはブロードバンド未整備の地区が相当残存していると見られる.これを地方別に見ると,北海道・東北,四国西部,南九州でブロードバンド・ゼロ地区が比較的多く残存する傾向が見られる.また,過疎法によって過疎地域市町村に指定されている中で,ブロードバンド・ゼロ地区が存在しない市町村は0.5_%_に過ぎない一方,同地区が3割以上の市町村は34.4_%_もあり,過疎地域におけるブロードバンド整備の遅れは明瞭である.当然予想されるように,ブロードバンド・ゼロ地区は山間地が80.0_%_で多数を占めるが,離島も6.2_%_ある. (2) ブロードバンド整備事業  回答市町村の67.1_%_が,何らかの形のブロードバンド整備事業を実施しているが,それらの事業のうち36.6_%_が地域情報通信基盤整備推進交付金事業,16.7_%_が新世代地域ケーブルテレビ施設整備事業の制度を利用している.その他の補助制度を含めると,全体の82.7_%_が何らかの国庫補助を利用しており,ブロードバンド整備において国の政策が大きな位置を占めていることは明らかである.こうしたブロードバンド整備事業では,光ケーブルを,インターネットでの利用だけではなく,デジタル・ケーブルテレビと共用することで,効率的なインフラ整備を目指すものも多く,回答された整備事業の37.3_%_はケーブルテレビの整備事業と認識されている.ブロードバンド整備事業を完成年度別に見ると,2001~03年にひとつのピークが見られるが,これは新世代地域ケーブルテレビ施設整備事業によるケーブルテレビ整備が相次いだことを反映している.ケーブルテレビ整備事業が行われた市町村では,ブロードバンド・ゼロ地区が残存しないものが多いことも,地上デジタルテレビ難視聴地区の解消のため,市町村がケーブルテレビ網敷設を徹底的に進めたことの影響であると考えられる.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671182464
  • NII論文ID
    130007017405
  • DOI
    10.14866/ajg.2011s.0.9.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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