北海道新幹線開業に対する青森県内の意識と課題

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  • Regional attitudes and problems toward the development of the Hokkaido Shinkansen in Aomori Prefecture

抄録

1.本研究の目的<br>整備新幹線の一路線である北海道新幹線は2016年3月に道南・新函館北斗開業を迎える。発表者は2014年8~9月、青森県内の青森、弘前、八戸の3市で、選挙人名簿から抽出した住民896人を対象に郵送で、北海道新幹線開業で予想される地元の変化に関する調査を実施した(回答313人、回収率35%)。本研究では、この調査に基づいて開業に対する地元の意識を分析、さらに直近の調査から、青森県内と道南地区が開業に向けて抱える課題を整理する。<br><br>2.青森県における道南開業の経緯と意義<br> 青森市において函館市は「青函ツインシティ」の提携相手、また小学校の修学旅行先などとして親しまれると同時に、北海道新幹線の開業後には観光客を奪う格上の観光地として警戒されてきた。青森市内には、東北新幹線開業から北海道新幹線開業までの期間を「ターミナル効果の享受期間」として期待する空気があった。しかし、北海道新幹線の着工決定に伴い、新青森駅がターミナルとなる期間が約5年と確定、市内の期待感は一気にしぼんだ。一方で、県内随一の観光都市である弘前市は2010年12月の新青森開業時から道南地域との連携を本格化させた。また、八戸市は、2002年の東北新幹線開業時に八戸-函館間の特急列車が新設されて以来、同じ水産都市として、函館市との交流を強めてきた。以上のような経緯により、古くから函館市と交流の深い青森市で北海道新幹線開業への期待感が低く、より遠い八戸市や新幹線の沿線にない弘前市で期待感が高い、という現象がみられた。新青森開業の3カ月後に東日本大震災が発生、十分な開業効果の享受に至らなかったことから、青森県側は新函館北斗開業を「第三の開業」と位置付けた。北海道側との商談会が開かれ、開業時にJRグループが展開するデスティネーション・キャンペーンの事務局も青森県側に置かれるなど、各種活動が活発化している。<br><br>3.調査結果にみる住民意識<br>発表者が日本地理学会の2015年春季学術大会で報告したように、整備新幹線の開業地域ではこれまで、地元経済界や行政機関の動向を調査した事例は多いものの、住民の意識や開業に対する評価は、そもそも検討・調査対象としてほとんど認識されていなかった。今回の調査を通じて、北海道新幹線に対する青森県内3市の住民意識の一端がデータとして明らかになった。 道南地方へ年1回以上、出向いている住民は、最も多い青森市でも14.7%にとどまり、各市とも6~7割は「ほとんど行かない」と回答、日常的な交流は必ずしも活発ではないことがうかがえる。だが、新幹線開業後については、各市とも4割前後が「道南へ出向く機会が増える」と答え、一定程度は交流の増加が期待できる。 ただ、北海道新幹線の開業がもたらす変化については、ネガティブな予測がポジティブな予測を大きく上回った。最も悲観論が強い青森市での上位回答(複数回答)は、「道南・函館に青森県の観光客が吸い取られる」62.9%、次いで「道南・函館に青森県の経済的な利益を吸い取られる」39.7%、「北海道から青森県を訪れる観光客が日帰り化する」37.9%だった。弘前市は「観光客が吸い取られる」(47.5%)、「観光客が日帰り化する」(43.6%)に続き、「青森県と北海道の経済的な交流が活発化する」(41.6%)が入った。八戸市は上位3項目が弘前市と同じで、いずれも47.9%だった。全体的にみて、弘前、八戸の両市は警戒心が強い半面、期待感も高い。新函館北斗開業が「自分の暮らしに良い効果をもたらす」とみる住民は、青森市で25.0%、弘前市で21.8%、八戸市で24.0%にとどまる一方、「青森県に良い効果をもたらす」はそれぞれ27.6%、34.7%、38.5%と高めの数字となっている。<br><br>4.今後の課題<br>青森県内には北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅が立地し、開業準備が急ピッチで進んでいる。ただ、同駅が所在する今別町は人口約2,700人にすぎず、開業効果の創出や地域づくりへの新幹線活用が課題となっている。一方、道南側は新函館北斗駅の開発や機能整備が懸案となっていたが、2015年7月にようやく、地元資本がホテル、温浴、物販・飲食施設を備えた複合ビルを建設することが決まった。しかし、東京-新函館北斗間の最短所要時間が4時間を超える上、新幹線駅から函館市中心部まで18kmもの距離があるため、地域振興にどのような効果を見込めるか、不透明な状態にある。整備新幹線の建設の是非や意義については、多くの論点がある一方で、特に本研究で扱った住民の意識などの視点は看過されてきた。2015年3月に開業した北陸新幹線も同様である。青函地域が著しい人口減少に見舞われる中、住民意識が実際に、地域振興とどうリンクしているのか検証し、対策に活用する必要がある。<br><br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671184256
  • NII論文ID
    130005490122
  • DOI
    10.14866/ajg.2015a.0_100091
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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