栃木県大田原市における新規需要米生産の拡大とその意義

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  • Growth and its significance of rice for new demand in Ohtawara Tochigi Prefecture

抄録

Ⅰ.問題意識と研究目的 <br>米の生産調整政策(以降,減反政策)が,大きな転換期にある.政府は,2013年に5年後(2018年)を目途に,減反政策を廃止すると公表した. 1970年に始まった減反政策は,「純粋な減反を目論んだ政策」から「生産政策」へ,さらには「構造政策」へと内容が変容してきた(松村,2002).2004年には,「米政策改革大綱」の下で「水田農業構造改革対策」が始まった.これは,①一律的な面積配分による生産調整から販売実績に基づく生産調整への転換,②地域水田農業ビジョンの策定を通した担い手の明確化,③全国一律の要件,単価から産地づくり対策等の実施による新たな助成体系への転換を図り,稲作地域の構造改革を促すものである.①と③に関連して,2008年からは新規需要米(飼料用,WCS,米粉用など)の生産が奨励されてきた.1980年代半ば以降の減反政策は,構造政策的性格を強めているとともに,その枠組みのなかで新規需要米への転作助成が強化されてきた. そこで,本研究は新規需要米のなかでも飼料用米生産に着目し,飼料用米生産が稲作農家の経営と生産地域にどのような影響をもたらしているのかについて明らかにするとともに,その経営的,地域的な意義について考察することを目的とする.   <br><br>Ⅱ.日本における新規需要米生産の実態 2008年に12,314haであった新規需要米生産は,2014年になると71,073haへと拡大している.新規需要米のなかでは,飼料用米が33,881ha,WCS用稲が30,929haで,その作付面積が大きい(2014年産).都道府県別にその生産実態をみると,栃木県の5,282haを筆頭に宮城県(3,751ha),青森県(3,286ha)など東日本の各県の値が相対的に大きい.なかでも栃木県は,日本のなかでも新規需要米の作付面積が増加してきた地域の一つである.2014年の水稲作付面積に対する新規需要米の取組計画認定作付面積の割合(以降,認定面積率)は,全国平均で4.3%であった.栃木県は,全国第5位の7.7%となっており,全国でも有数の新規需要米生産地域であるといえる. 栃木県の北東部に位置する大田原市は,認定面積率が県内でもっとも高く,新規需要米のなかでも飼料用米生産に特化している地域である.<br><br> Ⅲ.大田原市における新規需要米生産 大田原市における転作作物の作付面積は,2007年を100とした指数でみると,2009年に104を示した後,2013年に92となり,減少傾向にある.近年,特に減少している転作作物が,麦類・豆類・雑穀類である.これに代わって新規需要米および飼料用米の作付割合が高まっている. 新規需要米導入の背景は,①交付金・助成金が高い水準で設定されたこと,②(うるち)米の出荷時期を平準化できること,③水田利用を促進できることにあった.飼料用米はうるち米であり,稲作農家は,通常のうるち米栽培を行いながら,6月末の段階で「需給調整」を目的に米の「使途」を最終的に決定する.したがって,飼料用米生産のための新たな資本投下を必要としないため,稲作農家は飼料用米の生産に参入しやすい. JAなすの管内(大田原市・那須塩原市・那須町)で集荷された飼料用米は,2013年産の実績で,うるち米の全集荷量の約2.5%を占める1,019tであった(その内の約80%が,大田原市産であった).その約70%が大手資本の飼料会社へ,残る30%が大田原市内の地元企業へそれぞれ出荷されている. <br><br>   Ⅳ.結論 本研究から得られた知見は,以下の2点にある.第1は,飼料用米生産が,大手飼料会社や地元企業との新たな経済連関を生み出した点にある.このことは,米の新たな需要が創出されたことを意味している.第2は,飼料用米生産における転作補助金が,大規模稲作農家の経営安定に貢献している点にある. しかし,生産された飼料用米の大部分が,地域外の大手飼料会社に供給されている.その意味で,地域と資本との関係性のあり方が問われている.また,新規需要米に対する補助金は小規模稲作農家へのメリットが小さい.一部の農家は,野菜等の園芸作物の導入を進めている.こうしたなかで,大規模稲作農家への農地集積は,必ずしも進展しているとはいい難い.新規需要米生産を通した稲作地域の再編の方向性が問われている.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671186944
  • NII論文ID
    130005490129
  • DOI
    10.14866/ajg.2015a.0_100090
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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