地震災害に対する学生の防災意識と行動

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  • Students' consciousness and behavior of an earthquake disaster prevention at Ritsumeikan University, Kyoto

抄録

I.研究背景と目的<br> 東日本大震災の経験から、甚大な災害時にも利用可能な情報入手手段としてワンセグ放送の価値が改めて指摘されるようになった(総務省2013)。これを受けて、本研究の対象である立命館大学衣笠キャンパスにおいては、ホワイトスペースを活用したエリア限定ワンセグ放送による防災情報共有システムの構築を進めている。このシステムの主な利用者となる学生に有用なメディアデザインとコンテンツデザインの確定には、災害に対する学生の意識や災害発生時の学生の行動を理解しておくことが不可欠である。<br>  これまでにも大学生を対象とした防災意識に関する調査報告が蓄積されてきた(後藤ほか2004;黒崎ほか2007など)。そこでは、大学生の防災意識の低さや知識の欠如とともに、大学での防災訓練・防災教育の必要性が指摘されている。また、開講期間中に発災した場合、大学には多数の学生がキャンパスに滞在していることから、多くの帰宅困難者ならびに混乱が発生することが予想される(森田ほか2014)。そのため、事前の帰宅困難者の推計も必要とされている。そこで、本研究では大学生を対象とした質問紙調査によって防災意識と帰宅行動に関する意向を把握し、さらには、それらを規定する各種の要因を検討する。<br> <br> II.調査の概要と分析方法<br> 調査票は、①個人属性(通学経路や滞在時間等)と情報入手手段の所有実態、②防災・災害に関する経験、③災害の備え・知識、④災害時の対応、⑤メディアの利用経験、⑥キャンパス内の行動の6セクションから構成されるように設計した。なお、京都市防災マップを参考に、設問は地震災害に限定して災害に対する設問を設定した。衣笠キャンパスに所属する学部生・院生を対象とし、各学部および大学院生の在籍数を基準に600人の調査票回収を設計した。調査への協力者は、2014年12月3~5日にキャンパス内の屋外にて募った。ここでは、特に①~④の設問のうち災害への備えおよび災害時の行動に着目し、その規定要因を回答者の経験や居住環境といった個人属性から統計分析した。<br>  <br>III.分析結果と考察<br> 調査では、災害に備えることについてどう思うかを、興味、必要性、責任、信頼、知識・情報、自主性、他者との関係性、イメージのそれぞれの項目について5段階評価を求めた。その結果、「かっこいい」、「明るい」といったようにポジティブに捉えている回答者ほど、災害時の備えをしており、災害ボランティアなどの経験があることがわかった。すなわち、備えに対するイメージの好感度を上げることによって、災害の備えを高めることができるものと考えられる。<br> 大学滞在中に地震災害によって帰宅困難になった場合、大学に留まるか否かの行動選択には、大学から自宅までの距離および性別との関係性が認められた。大学と自宅までの距離が10km以内の学生は、徒歩で帰ることができると判断する傾向がみられたが、なかでも一人暮らしをしている学生は大学に留まることを選択することも多い。これは、下宿先の滞在よりも大学の滞在の方が安全であることを想定してのものと思われた。<br> なお、帰宅困難時には、大学から自宅まで20km以内の場合、徒歩での帰宅を推奨しているが、災害時に正しい判断や行動ができる自信が「まったくない」、「ない」と回答した学生は381人(63.6%)にのぼる。これを踏まえれば、発災時には情報や人の行動の混乱が生じ、帰宅困難者が想定よりも増加することが考えられる。<br> 以上の結果から、平時から学生への災害・防災の情報提供を行い、発災時の対応力を養うことが必要である。その方法として、記憶定着率が高いとされる映像を利用し、災害への備えに対するイメージ好感度が上がるようなコンテンツの提供が有効になるものと考えられる。<br><br> 引用文献<br>黒崎ひろみ・中野 晋・小川宏樹・岡部健士・村上仁士2007. 2006年度工学部新入生を対象とした防災教育の実施と防災意識調査. 大学教育研究ジャーナル4: 15-21.<br>後藤裕美・石川孝重・伊村則子2004. 都心キャンパスに通う大学生の地震災害に対する認識と行動に関する研究―その1 アンケート調査の概要と地震災害に関する知識―. 日本建築学会大会学術講演学術梗概集:441-442.<br>総務省2013.「平成23年度版情報通信白書」. http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h23/pdf/n0010000.pdf<br>森田匡俊・正木和明・奥貫圭一・落合鋭充・小林広幸・倉橋 奨 2013. 愛知工業大学八草キャンパスにおける大規模災害発生時の帰宅困難者数の推計. 平成24年度愛知工業大学地域防災研究センター年次報告書9:57-64.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671199104
  • NII論文ID
    130005489930
  • DOI
    10.14866/ajg.2015s.0_100205
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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