国際学術誌と日本地理学
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- 小口 高
- 東京大学
書誌事項
- タイトル別名
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- International Journals and Geography in Japan
説明
研究の成果を世界に発信するための重要なメディアは、英語で出版され、世界で広く流通している英語の学術誌(国際学術誌もしくは国際誌)である。日本の地理学研究を世界に発信するためには、日本の研究者が国際誌に論文を出版することが重要である。本発表では国際誌と日本地理学に関する私見を述べ、日本の地理学の国際化の一助としたい。<br> 研究の成果を世界に発信する方法は国際誌に限定はされず、個人のウェブサイトに英語の記事を置くような方法もある。しかし学術誌への公表がなければ、科学的な成果と認められない可能性がある。その主な理由は査読を経たか否かである。国際誌は良質の査読で質を維持しているといえる。 さらに査読の厳しい国際誌に論文を発表することも重視されている。国際誌の中には、投稿論文の大半をリジェクトするものがある。このような国際誌に論文を出版すると、難関を突破したとして高く評価される。ただし学術誌の評価に通常使われる指標は論文の採択率ではなく、トムソン・ロイター社が公表しているインパクト・ファクター(IF)である。IFは、ある学術誌に特定の2年間に出版された論文が、次の1年間に諸学術誌に引用された数を、2年間に出版された論文の数で割ったものである。新しい論文が高速に引用される程度を示す指標であり、値が高いほど優れた学術誌とみなされる。IFは毎年夏に前3年間のデータを用いて更新される。 IFはトムソン・ロイター社のリストにある特定の学術誌のみを対象に計算され、リストにない学術誌は引用の調査の対象にもならない。したがって、まずはリストに入っていることが学術誌のステータスになる。リストには自然科学系と人文社会科学系の二つがあり、それぞれSCI(Science Citation Index)、SSCI(Social SCI)と略されている。SCIとSSCIには学術誌の分野による分類が含まれ、前者には「自然地理学」、後者には「地理学」の項目がある。最新のリストでは前者に45、後者に72の学術誌が登録されている。これらの学術誌には「地理」を冠するものとともに、第四紀学や景観研究といった関連分野の雑誌が含まれる。「自然地理学」と「地理学」の項目には、BritishやAmericanを冠し、かつ高いIFを持つ学術誌が含まれる。しかし他の国や地域の名前を冠したものは少なく、日本発の学術誌は全く含まれていない。 <br> 日本の地理学の研究成果の過半は日本語で出版される。ただし自然地理学では地球科学を含む理系全般の状況を反映し、英語による公表が相対的に多い。かつては地理の学科や教室が独自に運営される場合が多かったが、最近は他分野と統合されたり、人事等の際に他分野の研究者から評価される機会が増えている。このような状況で国際誌への出版が低調だと、地理学が低く評価され、研究者がポストを得られないといった問題が生じる。これが深刻か否かは機関や部局により差があり、文系の部局では日本語の単著の書籍の有無を問われても、国際誌は無関係という場合もあるようだ。しかし教育や研究の国際化が、文理を問わず国策等で重視されている。また、学科等の再編は今後も続くだろう。したがって、もし国際誌への出版に日本の地理学が対応できなければ、他分野に徐々に押され、縮小を余儀なくされると思われる。 同様の問題は留学生に関しても生じる。たとえば中国や台湾では、SCIやSSCIに登録されている国際誌にどれだけ論文を出版したかが研究職を得る際に問われる傾向が強まっている。日本に留学して学位を得ても、国際誌に論文を出していないと、本国に戻ってから活躍できない可能性がある。 国際誌に論文を出版するためには、英語による執筆の力とともに、いかに導入部や考察で研究を国際的な視野で位置づけるかといったノウハウを要する。これが上手くできれば、研究の対象地域が日本であっても国際誌に出版される可能性が高まる。この種の技量は一朝一夕に得られるものではない。日本人研究者が国際舞台を目指す際には、まずは英語で口頭・ポスター発表をこなせるようになり、次に国際誌に論文を書けるようになるという段階を経るが、それぞれにハードルがある。これらのハードルを超えた研究者を増やし、得られたノウハウを若手に伝えていくことが、長期的な日本の地理学の発展のために非常に重要と考える。 また、SCIやSSCIに含まれる日本発の学術誌を発行することも、日本の地理学を世界に認知させる一つの方法である。このためには、既にSCIやSSCIに含まれる雑誌に頻繁に引用されるような魅力的な英文論文を含む学術誌を編集していく必要がある。
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2014s (0), 100127-, 2014
公益社団法人 日本地理学会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680671263232
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- NII論文ID
- 130005473783
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可