インドの経済発展と新しい経済空間

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タイトル別名
  • Economic Development and New Economic Spaces in India
  • メガ・リージョンの台頭
  • Rise of Mega-Regions

抄録

1.はじめに 近年のインドの経済成長は、都市化の進展や大都市の発展、工業地域の形成など急激な空間の変化をもたらしている。これらの空間的諸変化は経済発展に伴う経済空間の全国土的な統合・再編によるものと考えられる。インドでは、経済自由化以降、グローバル化と国内市場の拡大にともない資本の移動が活発化し、また国内外への労働力移動も拡大している。また、交通・通信インフラの整備により、人や物、情報の流動も増大の一途をたどっている。このような生産要素等の流動性の増加は、インドの空間構造が大きく変動していることを示唆する。それは、大きく見れば、後進国型の都市・農村の二重的構造から先進国型の中心・周辺の求心的構造への移行という変化である。  従来、インドの空間構造を捉える時、空間を都市・農村に二分して捉える見方が一般的であった。その枠組みは今日でも有効な面があるが、農村問題が農村内部だけでなく、国家レベルの政治経済やグローバル化など外部のファクターに大きく規定されていることからすると、都市農村の枠組みを超えた空間構造にもっと目を向ける必要がある。 本シンポジウムでは、現代インドで出現しつつある新しい経済空間について、産業立地・産業集積の側面と、大都市およびメガ・リージョンの側面に分けて検討するが、本報告は、その前提となる空間構造把握の枠組みと新たな経済空間としてのメガ・リージョンの意義について述べる。 2.現代インドの空間構造把握の枠組み 現代インドの空間構造把握においては、新経済地理学の重視する「産業の集中・集積」、地域構造論の重視する「産業配置(産業立地、地域循環)」と「地域経済(産業地域、経済圏)」が重要な意義を持つ。また両者がともに注目する、政治過程としての地域政策も無視できない。さらに、①政策的な保護対象である小規模工業の集積、②個々の地域条件の下で農業部門を中心に歴史的に形成され、今日も機能している地域的再生産構造、③社会資本の整備に伴って重要度を増す大都市の外部経済も重要である。これらをふまえて、現代インドの空間構造把握の枠組みを提示する。 3.現代インドの空間構造−地帯構成モデルと中心・周辺モデル 空間構造の変動メカニズムを、地帯構成モデルと中心・周辺モデルによって説明する。地帯構成モデルは、農業を軸に再生産構造の「型」を想定し、地域的な差異を先進後進の地帯性として捉える。これは国内市場が全国的に統合されず、都市と農村の二重的構造が顕著な状況に有効であろう。「ヒンディー・ベルト」とパンジャーブ、あるいは北インドと南インドの間で、地域的な再生産構造が異なることは容易に想像がつく。これに対して、中心・周辺モデルは経済発展にともなう国内市場の全国的な統合を前提とする。現代インドはまさにこの中心・周辺モデルへの移行過程にあるといえる。そこでは、グローバル化や、国内市場の拡大と統合にともない、労働力や資本といった生産要素の移動が活発化する。国内外を問わず、低開発地域から先進地域への労働力移動が拡大する一方で、交通・通信インフラの整備によって空間的障壁が弱まり、物資や情報の流動が増大する。他方、国際分業体制に組み込まれるため、海外直接投資が地域発展に大きく影響するようになる。しかも投資の大都市偏在は、中心・周辺モデルを一層強化する方向に作用するであろう。 4.メガ・リージョンの台頭とその意義 急速な大都市の発展、産業集積の発展、郊外空間の急速な拡大といった現代インドの状況からは、経済成長を牽引する「中心」は、単体の大都市よりも、それらを核としたより広域の、都市集積+産業集積として捉えることが適切と思われる。この空間こそがメガ・リージョンである。メガ・リージョンは、都市群とそれらの周辺の郊外地域が一体となった多核心的な集積であり、単に人口が多いだけでなく、イノベーション、生産、消費市場などの拠点が集結することにより成立している。メガ・リージョンが新経済空間としての実体をもつようになるが、その一方で、メガ・リージョンから離れた地域は停滞を余儀なくされ、地域間の格差拡大と固定化が大きな政治問題となるだろう。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671267968
  • NII論文ID
    130005489980
  • DOI
    10.14866/ajg.2015s.0_100184
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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