埼玉県飯能市におけるエコツーリズム推進の社会的背景とエコツアー実施者の参画意識
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- 中岡 裕章
- 日本大学大学院理工学研究科
書誌事項
- タイトル別名
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- Social background of Ecotourism promotion and Participation awareness of eco-tour guide in Hanno city, Saitama prefecture
説明
エコツーリズムは,持続可能な観光の一形態であることが知られている.このエコツーリズムの理念について,立場や視点の違いから様々な議論がなされてきた中で,一般には自然地域(Natural areas)の環境を保全し,かつ地元住民の生活が保障されるように教育的・解説的な活動を伴って実現する旅行(The International Ecotourism Society 2015)として認知されてきている.すなわち,世界的なエコツーリズムにおける主たる対象は自然地域と表現するように自然環境であるといえる.<br> 日本におけるエコツーリズム開発においても,はじめは屋久島や知床などの自然遺産地域で展開した.しかし,それら以外の地域は人間との関りの中で保全されてきた環境であることに加え,人文資源が混在する環境である.このため,エコツーリズム推進協議会(1999)はエコツーリズムを①自然・歴史・文化など地域資源を生かした観光の成立,②地域資源の保全,③地域資源の健全な存続による地域経済への波及効果の3点を実現するツーリズムと定義した.つまり,世界的なエコツーリズムの主たる対象が自然環境であるのに対し,日本では歴史や文化などの人文資源も対象として展開している.<br> 従来の研究では,エコツーリズムによる環境保全の方法やエコツアーガイドの重要性に加え,エコツアー実施団体の取り組みについて地域環境ごとに論じられてきた.しかし,エコツアーに携わる地域住民の参画意識に着目した研究は乏しい現状がある.また,エコツーリズムの発展の可能性を検討する際,地域社会の自然や生活文化に着目するだけでは不十分であり,地域住民の利害関心とエコツーリズム推進地域の社会的な背景に着目することが必要である.加えて,観光現象が成立する上で不可欠な観光客への視点の欠如や,階層性を無視してひとまとめに地域住民としているといった指摘もあり,両者の視点に立った実証研究が求められる.<br> 本研究では,埼玉県飯能市を事例として,エコツーリズム推進の社会的背景や地域社会の特色とエコツアー実施者の参画意識を整理しながらエコツーリズムの抱える問題点と課題を考察する.<br> 調査は2014年から2015年にかけて,飯能市役所観光・エコツーリズム推進課,飯能市エコツーリズム推進協議会,エコツアー実施者に対して直接面接調査を行った.<br> 埼玉県飯能市は,面積の約76%を森林が占め,林業を中心としてきた歴史がある.近年では産業の衰退に加え,山間地域を中心とした少子高齢化や人口減少が問題視されている.こうした背景の中,飯能市のエコツーリズムは,2004年の「エコツーリズム推進モデル事業」に対して飯能・名栗地区として参画したことからはじまった.2005年には「飯能市エコツーリズム推進協議会」を設置し,エコツーリズム推進に関する会議やシンポジウムの開催,エコツアーガイドの養成を目的としたオープンカレッジを開始した.協議会は,学識経験者,農林業関係者,環境保全活動実施者,関係行政機関職員などで構成されており,飯能市におけるエコツーリズムの基本方針を定める役割を担っている.<br> 本研究では,エコツアーに携わる50人に対するアンケート調査および聞き取り調査を実施した.飯能市のエコツアーは参加料を徴収するものの収益はほとんど無く,ボランティア的な活動になっている.こうした状況に対し,エコツアー実施者の間で意識に差がみられた.<br> 人口が集中する東部と飯能市以外に居住するエコツアー実施者は,生きがいや自分自身の勉強のためにエコツアーに携わる割合が高い.このため,エコツアーがボランティア的な活動である事について約78%が肯定的である.しかし,環境保全費用の獲得が出来ない現状や,エコツアー実施者に若者が少ないことについて否定的なエコツアー実施者もいる.<br> 一方,中西部に居住するエコツアー実施者は,人口減少や少子高齢化が進行する現状に対する危機感が強く,エコツアーがボランティア的な活動である事について約92%は否定的である.つまり,同じ自治体内であっても,居住する地域の状況や個々の利害関心によって,エコツーリズムに対する考え方が異なるといえる.
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2015a (0), 100159-, 2015
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680671295360
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- NII論文ID
- 130005490241
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可