プルトニウム生産拠点、ハンフォード・サイトの「自然」

書誌事項

タイトル別名
  • Nature Constructed through the Production of Plutonium at Hanford Site

説明

1.   はじめに<br> アメリカ合衆国(以下、アメリカ)は、第二次世界大戦中のマンハッタン計画のもと、ワシントン州東部を縦断するコロンビア川沿いにプルトニウム生産を目的としたハンフォード・サイトを設置した。ハンフォード・サイトは、安全保障のための「犠牲区域」の構築を前提に、コストとリスクを想定外の域に不可視化したうえで肥大化し、国家事業として進められてきた核開発の原点ともいえる場所だ。その地理空間を織りなすのは、砂漠地帯を流れる豊かなコロンビア川とその流域の生態系、西部フロンティアの歴史空間で育まれた、もしくは周縁化されてきた多様な生活文化、世界最大規模の放射能汚染と除染のプロセス、一枚岩ではない「地元」が抱える葛藤や土地利用をめぐる政治対立、先住民族と環境正義の問題など、さまざまである。<br> ハンフォード・サイトは、環境汚染が深刻な現場だ。現在、周辺の自治体や、コロンビア川流域を生活圏とする複数の先住民族の共同体が、連邦諸機関と連携、もしくは対立しながら、今後に向けた除染や土地利用に、誰がどのように取り組んでいくべきなのかを議論し、政治的な駆け引きを行っている。<br>   2. ハンフォード・サイトの「自然」<br> ここで重要なキーワードになるのが「自然」だ。1943年に同サイトのバッファー・ゾーンとして旧陸軍省が設置した一帯は2000年、ハンフォード・リーチ国定公園として、内務省魚類野生生物局の管理下に置かれた。これまで厳しくアクセスが規制されてきたため、この場所は野生生物の宝庫となっており、「自然」を売りにした観光地化が進められている。さらに、2015年11月、ハンフォード・サイトは国立歴史公園と制定され、国定公園の「自然」を体験するためのハイキング・コースに、長崎原爆の原料となるプルトニウムの生産が行われたB原子炉をはじめとする、核関連施設も組み込もうという動きが活発化している。<br> また、この地域一帯では2000年代、ワイン産業が急激に成長している。地元の自治体が観光客のために用意した地図では、ハンフォード・サイトは完全に不可視化されている。アウト・ドアで「自然」を体験し、歴史を学びながら、美しいぶどう畑に隣接するおしゃれなワイナリーで美酒を楽しめる場所というイメージの構築が進行中だ。いっぽうで、先住民族のあいだには、徹底的な除染作業を進め、もとの「自然」を返してほしいと要求する声や、観光地化ではなく、土地の返還をすべきだという声もある。 <br>3.まとめ <br> ハンフォード・サイトに展開する「自然」のポリティックスを分析する作業を通じて、アメリカ地理景観にみられる植民地主義的な思想と自然観、自然資源と文化資源、自然保護や環境運動のあり方と社会変革の動き、除染作業と観光地化される地理空間の切り離しと「自然」の言説の関係について問題提起を行いたい。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671425024
  • NII論文ID
    130007017501
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100156
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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