論文不正と災害の実像

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  • Real image of illegal thesis and disaster

抄録

はじめに <br>昨今の論文に見られる無断転載・行政審査の根幹に関わる不正問題は,教育や研究現場・行政審査(有識者会議)・報道にまで蔓延し,結果として多くの不利益を発生させているのが現実だろう.本発表では,演者が体験したモラル以前の違反・不正と思われる事例(不正流用と深刻な情報操作)を紹介し,この積み重ねによる不利益と日本最初の報道・研究災害がもたらした悲劇を紹介し,私たちが取り組むべきものは何か考えたい.<br><br>独法・行政機関に見る丸投げ体質とその実態 <br>東大と産総研が実施した地震防災関連報告(須貝ほか,2000他)では,外部発注の報告書に基づき,内部報と学術雑誌への投稿が認められた.この数億円をかけた複数のコア分析が数回の観察で根本的誤りを指摘された事態(中村・竹本,2014)は深刻である.巨費を投じた公的プロジェクトでは,現場を指揮した筆頭著者について,その資質と責任を問わざるを得ない場合(当該人物の研究費申請の一定期間制限)も必要だろう. 八ッ場ダム問題では,有識者会議座長と河川官僚により建設に不都合な資料を意図的に排除し,座長権限でうやむやにし続けた実態を傍聴した.その事例は「洪水が山を登り,隣接する低地帯で氾濫が起きていない【ねつ造氾濫図】を日本学術会議土木建築部門の委員長や群馬大委員が追認」パブコメでは,埼玉県主導でダム推進の「同一印刷文によるやらせコメント」が5千通を越え,報道を受けても関係者の処分は行われていない. 磐梯山噴火史料では,内閣府中央防災会議・県・観光施設担当者が,版権所有者に無断で転載して分析した報告書と書籍を,現在でも頒布・販売を継続している.いずれも,公表論文は引用せず,自らの業績として報告していたのが実態である.<br><br>125年間続いた日本最初の報道・研究災害の払拭(まとめ)<br> 磐梯山噴火の災害報道で起きた「長坂集落の悲劇」は,不十分な取材に基づく報道がきっかけであった.一方で地域報道に徹した福嶋新聞の記事は,全国紙報道によって埋もれていった.讀賣新聞の記事は,写真師のケガもあり集落全体の裏付を取らない報道であった.その後の報告(郡)も曖昧だったことが誤報を拡大化させた.災害の実像を残すため生存者が1926年に建立した「殉難之精霊」碑文(1989に再刻)をめぐる解釈・改ざんの研究論争はさらに被害者住民に追い打ちをかける事態をまねいた.風化に伴う再刻で起きた「誤記」に対して,米地(2006)は,結果として碑文の改ざんに繋がったとし,北原(1998)が尊重した伝承まで揶揄する報告を行っている.後世の研究者による一次史料の曖昧な検証と論争を繰り返したことが,125年間という永きにわたる風評被害を与え続けたのであった. 地道な報道をした福嶋新聞記者の活躍と犬塚又兵氏の記録絵画の発見がなければ,長坂に纏わる報道・研究災害はこれからもずっと続いていただろう.両者に学ぶべきは,客観的一次情報(史料)をしっかり記録し,論文として公表・発信し続けること,調査・研究に携わるものは,異論があれば常に客観的議論を公表し続けること,公権力を行使する側には,より厳しい眼を向け,情報操作や違反を発見した時は,最も不利益を受けるだろう側に立って情報を発信し続ける努力が大切ではないだろうか.<br><br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671456768
  • NII論文ID
    130005481654
  • DOI
    10.14866/ajg.2014a.0_87
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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