愛知県「海上の森」におけるナラ枯れ被害およびその後の森林動態と微地形との関係

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  • The relationships among mass mortality of Oak trees, forest dynamics after the damage and micro-landforms in the Kaisho Forest, Aichi Prefecture, central Japan

抄録

1.はじめに<br>2009~2010年に愛知県西部の里山植生に大規模な被害をもたらした「ナラ枯れ」は、その後収束し、2011年以降は新たな被害拡大はみられない。しかし、高木層をなすコナラ、アベマキの30~60%が枯死に至り(藤本・小南 2012)、植生構造に大きな変化をもたらした。ナラ枯れは、在来種であるカシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)による穿孔とそれに伴う病原菌の伝播に起因するが(黒田ほか2007)、その背景には、近年利用されなくなった里山で、ナラ類が大径木化したことが関係しているものと推定されている。本発表では、愛知県西部の代表的な里山「海上の森」に設置した2カ所の固定プロットでのモニタリング調査結果に基づき、ナラ枯れ被害と微地形との関係、およびナラ枯れ被害後の森林動態について報告する。<br><br>2.研究方法<br>固定プロットは、標高220~230mの傾斜約30度の北向き斜面(20m×20m:KP1)と、標高160~180mの南西向き谷頭部(30m×30m:KP2)に設置した。KP1は頂部斜面から上部谷壁斜面にかけて、KP2は谷頭凹地から頂部斜面に至る一連の微地形単位が含まれるよう設定した。KP1では2010、2011、2013年に胸高(1.3m)以上、KP2では2012、2014年に樹高2m以上の全樹木を対象に毎木調査を行った。調査項目は、位置座標、樹種、樹高、胸高直径、キクイムシ被害の有無、生死の別である。また、ポケットコンパスを用いてプロット内の地形測量を行い、ArcGISを用いて地形図を作成するとともに、微地形単位、傾斜等の微地形条件とナラ枯れ被害の関係、各樹種の分布、およびナラ枯れ被害後の樹種別成長率等について分析した。<br><br>3.結果<br>1)固定プロットにおけるナラ枯れ被害状況<br>KP1の被害状況は藤本・小南(2012)で報告したので、ここにはKP2の被害状況について記載する。2012年の調査では、22種、計504本の樹木が確認された(枯死木含む)。そのうち、常緑広葉樹が374本、落葉広葉樹は122本と本数では常緑樹が上回るものの、胸高断面積では常緑樹699m2/haに対し、落葉樹は3206m2/haと常緑樹の約4.6倍を占める。針葉樹やタケも合わせた全断面積合計と比較しても81%を落葉樹が占める。最大胸高断面積を有する樹種はコナラで1332m2/ha、次いでアベマキ1073m2/ha、リョウブ801m2/haで、それぞれ全断面積合計の33%、27%、20%を占める。<br>ナラ枯れ被害は、特にコナラとアベマキに見られ、前者は27本中9本、後者は15本中5本が枯死していた。両者を合わせた枯死率は、傾斜20度以上の斜面で38%と、20度未満の斜面(17%)より明らかに高い。微地形単位毎の枯死率は、頂部斜面17%、上部谷壁斜面42%、谷頭凹地30%と上部谷壁斜面が最大であった。KP1と比較すると(枯死率75%)、KP2では全体的に枯死率は低かった。<br><br>2)植生分布と微地形の関係および被害後の森林動態<br>KP1では、頂部斜面に落葉樹の低木がやや多く分布するものの、地形条件と植生分布の顕著な対応は認められない。ナラ枯れ被害前の森林構造は、樹高10m以上の高木層は落葉樹が大半を占め(コナラ14本、リョウブ5本)、常緑樹はソヨゴが4本見られるのみであったが、被害後には、コナラが4本に減少したのに対し、リョウブが10本、ソヨゴが8本へ増加した。高木層の胸高断面積成長率には落葉樹と広葉樹の間に有意差は認められなかったが、低木層は落葉樹の成長率が有意に大きかった。<br>KP2では、頂部斜面と上部谷壁斜面で立木密度が相対的に高い。コナラとアベマキは全体に分布するが、リョウブやヤブツバキは頂部斜面や上部谷壁斜面に多く分布する。樹高10m以上の高木層は、被害前が落葉樹56本、常緑樹5本、被害後はリョウブの成長に伴い落葉樹55本、常緑樹7本とその比率に大差は見られなかった。<br>今後は、大径木の枯死に伴い形成されたギャップおよび微地形条件と成長率の関係を分析する必要がある。<br><br>参考文献<br>黒田慶子・衣浦晴生・高畠義啓・大住克博2007. 『ナラ枯れの被害をどう減らすか-里山林を守るために-』独立行政法人森林総合研究所関西支所.<br>藤本潔・小南陽亮 2012.愛知県「海上の森」におけるナラ枯れの現状と炭素固定機能への影響.日本地理学会発表要旨集 81: 73.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671522688
  • NII論文ID
    130005489817
  • DOI
    10.14866/ajg.2015s.0_100130
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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