フランス中央高地におけるランドネとツーリズム

書誌事項

タイトル別名
  • Randonneuring and tourism in the Massif Central in France
  • R. L. スティーブンソン『旅はロバを連れて』

説明

近年,健康や環境への関心が高まるなか,ハイキング・トレッキングのブーム,トレイルやフットパスの整備によって,「歩くツーリズム」が注目を浴びている。フランスでは歩くアクティビティの総称は「ランドネ」と呼ばれ,国民が好むスポーツの第一位となっている(Pôle Ressources National Sports de Nature,2011)。また,バカンスにおいてフランス人の最も多くが選択するアクティビティは「歩くこと」である(CMA Haut-Savoie, 2011)。現在フランス国内で整備されたランドネのルート総延長は約10万kmを超えるといわれており,農村や山村における新たなツーリズム資源ともいえる。本研究はフランスにおける「ランドネ(Randonnée)」に注目し,紀行文の再活用事例の考察から文化的資源と山村ツーリズムの関係性について明らかにすることを目的とする。本研究に関わる調査は、2012年春~夏、および2014年冬に行い、スティーブンソン組合員・賛助会員への聞き取り調査、宿泊業者への聞き取り調査、ランドネに来た観光客へのアンケート調査、組合所有の資料・統計類をデータに用いる。 本研究で取り上げる紀行文の作者は,『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』などで著名なロバート・ルイス・スティーブンソン(Robert Louis Stevenson,1850~1894年)である。人生の大半を旅と放浪に費やしたスティーブンソンは,旅のなかで多くの作品を執筆しており,本研究が対象とするのは1878年9~10月にフランス・セヴェンヌ地域をロバと伴に歩いた記録を作品にした『旅はロバを連れて(英題:Travels with a Donkey in the Cévennes)』(1879年)である。セヴェンヌ地域には,この作品を基に1990年代に整備されたランドネのルートによるツーリズムが展開している。 文化的資源の再活用によるツーリズムは,ランドネ旅行者によって消費され、その対象は「文化的資源」,「自己の体験」,「地域・文化に対するイメージ」であった。まず文化的資源は,紀行文や作家の追体験,あるいは自然や遺産,歴史など,観光ホストが提供あるいは提案する文化的資源であり,これらはホスト側が想定するツーリズム要素でもある。他方,ホスト側からみたツーリズムとは別の目的や期待が旅行者には存在し,その一つがランドネを通じて得られる自己の体験であった。この自己の体験は,ランドネを通じて「自然」あるいは「友人」,「家族」などと時間を共有することで生まれる喜びであり,ランドネが単なるスポーツとしての歩くアクティビティを超えた意味も持つことを示している。また,ランドネ旅行者の消費の対象には,旅行者たちの地域・文化に対するイメージも含まれていた。彼らはまだ知らぬ土地や遠く離れた場所での新たな「発見」を旅に求め,それらは「本物の農村」,あるいは「土地に根差した文化」がフランスの遠い奥地山村に色濃く残っている,というイメージに支えられている。こうした旅行者のイメージの背景には,土地や自らの生れた場所との結びつきが強いフランスの「テロワール」が存在しており,まだ見ぬ土地への何かを求める欲求,そしてテロワールを強く感じる場所としての隔離された山村イメージが,セヴェンヌのランドネへと旅行者を駆り立てていると考えられる。スティーブンソンの道にみるランドネを通じたこのツーリズム形態は,ランドネ旅行者自身とそれに対する地域・文化・自然・テロワールとの相互作用の過程にあるツーリズムというこということができよう。 *本研究は第一回小林浩二助成(2013年度:日本地理学会)による研究成果の一部である。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671571072
  • NII論文ID
    130005489837
  • DOI
    10.14866/ajg.2015s.0_100091
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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