浙江省温州市近郊,青田県の僑郷としての変容(3)
書誌事項
- タイトル別名
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- Transformation of the hometown of overseas Chinese in Qingtian, the suburbs of Wenzhou, Zhejiang Province, China (3)
- Characteristics and development of urban structure
- ―僑郷の街づくりと都市空間的特色―
説明
海外に移住した華人(華僑)は,それぞれの移住先で経済的な恩恵を受けながら,移住先の文化も受容してきた。華人の故郷となる僑郷は,華人とのつながりまたはネットワークを通して,経済の面でも文化の面でも海外からの影響がもたらされている。そのような影響は,街づくりまたは都市空間にも他の都市とは異なる特色として現れる。特に,近年,中国の経済発展とともに,海外に移住した華人が商機を狙って中国国内で投資するケースが増加することは,僑郷の都市景観を著しく変化させていく。<BR> 1.青田市街地の概況<BR> 唐の時代の睿宗雲2(711)年に県制が設置されて以来,青田県の行政機関所在地は鶴城鎮に置かれてきた。県の中心都市となるこの県内最大の市街地は通常「県城」と呼ばれる。1949年までには11本の細い巷しかなかった街地は,現在,南北11本と東西18本の道路または路地で構成され,甌江に沿って帯状に広がる都市として成長してきた。特に,1990年代に入ってから,甌江に新しい橋が建設され,交通が便利になるとともに,甌江南岸でも開発が進んでおり,鶴城鎮の人口も1949年には0.83万人であったが,2006年にはその約10倍の8.22万人に増加した(青田県建設誌編纂委員会,2003)。<BR> 2.華人のネットワークと僑郷とのつながり<BR> 華人が僑郷にもたらす影響と効果は,華人と僑郷とのつながりによるものと考えられる。近年,中国では華人が重要視され,華人に関する研究も増加しており,僑郷の青田と海外在住の青田出身の華人に関する研究も少なくない。華人が故郷にもたらす最初の効果は,海外で稼いだ資金を故郷にいる親族に送金することである。華人の経済的成功とともに,経済的な還元は送金から寄付へ,さらに投資へと変わっていき,受益する対象も親族から公共事業,さらに地域全体へと拡がる。2001年以来,青田県政府は積極的に「華僑要素回流プロジェクト」を実施し,華人の経済力を青田発展の原動力として位置づけた。<BR> 3.経済的な影響<BR> 華人が僑郷に与える経済的な影響としては,送金,寄付,投資などがあげられる。中国銀行青田支店によると,2000年のからの送金総額が1.2億米ドルである。青田県華僑弁公室の統計では,2001年7月末まで,華人が青田に投資した総額は3.2億元である。華人の寄付金によって建設されたものとしては,華聯大楼,山湯道路,太鶴公園,華人飯店,青田中学校,中山中学校,方山中学校,甌江大橋,青田移民歴史陳列館,夏康体育館など公共またはサービス施設が挙げられる(青田県誌編纂委員会,1990)。<BR> 1990年代に入り,中国では市場経済が発展し,無限の商機が青田華人にさらなる発展の機会を与えた。2002年以来,華人が不動産業に大量の資金を投入した。2001,02年の2年間,青田県の不動産開発投資額は9億元に及ぶ。市街地面積2.1㎢,人口僅か5.8万人の青田県城には11軒の不動産会社がある。以降,商業・住宅複合施設「新世紀大厦」(22階)と「華光大厦」(23階),「聖華商業広場」,「陽光華庭商住楼」,高級住宅「正達豪景山荘」(2.1ha),住宅団地「金鶴苑」,4つ星ホテル「正達開元大酒店も華人の投資によって建設され,都市の景観と空間構成を大きく変化させた(青田華僑史編写組)。<BR> 4.人的リソースによる影響<BR> 2008年上半期,世界金融危機以降,華人が中国に戻って起業するケースが増えてきた。米国ニューヨーク市都市計画局局長を務めたことのある青田籍の建築家,饒及人氏が招聘され,「欧陸風情,山水家園」というテーマの青田都市計画に携わった。<BR> 5.文化的な影響<BR> 華人と故郷の連絡とコミュニケーションが強まるのに伴い,ヨーロッパ文化が華人によって故郷の青田へも伝来した。帰国華人は,地元の住民がヨーロッパの飲食と文化に対する好奇心と憧れを察知し,西洋式の飲食店を開業した結果,地元住民もデザート,パン,ステーキなど洋食を日常生活に取り入れた。この小さな市街地には100軒を超える洋食,カフェー,バーがオープンされ,青田華人が僑郷の生活パターンと生活理念を変化させたことを示す。店が増えると,競争の結果によって価格も抑制され,地元住民の消費できるようになったのも一因である。<BR> 6.僑郷の都市空間:現地調査を踏まえて<BR> 2010年8月に現地で外国文化または出国関係の施設を対象に調査を実施した。45軒の施設のうち,洋食店23軒,出国書類作成7軒,金融・外貨5軒,出国技能学習3軒,ホテル3軒,旅行2軒,サービス・その他2軒との構成である。洋食店はいずれも外国に因む店名を付け,「美食・コーヒー」を掲げるものであった。
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2011s (0), 35-35, 2011
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680671594368
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- NII論文ID
- 130007017594
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可