乾湿の繰り返しによるアンコール・ワット西参道におけるラテライト石材の風化

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タイトル別名
  • Wet-dry weathering of laterite blocks at the Angkor Wat western causeway.

抄録

アンコール遺跡は,カンボジア・シェムリアップ周辺に9~15世紀に存在したクメール王朝時代の石造建築遺跡群である.遺跡に使用されているラテライト石材は,遺跡の土台部分や環濠・城壁を中心に多く利用されている.近年,ラテライト石材の劣化は深刻な問題となっており,1952年には,アンコール・ワット西参道が大崩壊した例もある.そこで本研究は,アンコール遺跡群のアンコール・ワット西参道に使用されている建設当時の古いラテライト石材や,近年修復により新たに導入された新しいラテライト石材を対象に,風化プロセスの検討を行なった.アンコール・ワット西参道では,北東部の側壁に近年修復された新しいラテライト石材が,北西部のそれに建設当時の古いラテライト石材がみられる.ラテライト石材の劣化状態を把握するため,北東部3地点,北西部4地点にて,観察およびサンプルの採取を行った.また,石材の風化度および石材表面の水分量を把握するため,エコーチップ硬さ試験機・帯磁率計および赤外線水分計による測定を行った.そして,ラテライトの風化特性を把握するため,室内にて乾湿繰り返し実験を行った.一方サンプリングした石材は,主要構成鉱物を同定するため,X線回折分析を行った.西参道北西部では,側壁基部に顕著な凹みのみられる地点があり,最大で36cmの奥行きを持つ凹みが確認された.そして,北西部の石材表面には,最大直径5cm程の数多くの空隙がみられた.一方北東部では,凹みや空隙はほとんど認められず,稀に最大直径2cm程度の空隙が観察された.環濠の水位変化を基準にすると,側壁上部の石材強度(HLD),帯磁率,含水比(%)の平均値は,それぞれ北西部で312,0.56,14.8,北東部で374,0.82,12.8であった.一方,側壁下部における平均値は,北西部で224,0.48,30.0,北東部で363,0.82,20.2であった.乾湿繰り返し実験により,石材の残留率は17サイクルで90%まで減少した.古いラテライト石材の主な構成鉱物は,ゲータイト・ヘマタイト・石英であった.なお,未風化のラテライト(採石場より採取)からは,カオリナイトも確認されている.西参道の側壁は下部が水に接しており,雨季と乾季の降雨によって最大60cmの水位変化が生じる.測定された含水比は側壁下部で高い値を示していることから,水位変化が石材の風化に影響を与えていることが推定できる.乾湿繰り返し実験からわかるように,湿潤・乾燥が繰り返されると石材に破砕が生じる.西参道北東部と比較して,北西部の石材の強度は約19%低く,帯磁率も約32%低かった.このことから,水位変化に伴う乾湿の繰り返しによって,石材の風化は進行し,強度低下が生じたと考えられる.また,石材表面の空隙の拡大には,水位変化によるカオリナイトの流出が考えられる.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671626240
  • NII論文ID
    130007017609
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100066
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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