中国における都市地理学の研究動向

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Trends of the Urban Geography in China since 20c

抄録

<br><br>Ⅰ はじめに<br><br>中国地理学の百年歴史の中で、都市地理学が経済地理学とともに発達してせいぜい三十年。改革開放以来急速な都市化の進展にともない、都市計画への経済地理学者の参与が大きなきっかけとなった。それ以来、「実用主義」や「実践志向」が次第に中国都市地理学者のアイデンティティとなったが、2000年以降、「科学化」及び理論志向へのシフトに伴い、中国における都市地理学研究の多様化が進み、一方で、学問としての共有知識およびアンデンティティも見えなくなりつつある。本研究では、中国における都市地理学の歩みを歴史的そして構造的な視点から総合的に分析し、それを踏まえた上で中国における都市地理学の変容の実態と問題点、そして今後の動向について検討しようとする。<br><br>分析対象とするのは20世紀以来、とりわけここまで30年における中国都市地理学の動向である。なお、今回の発表は主に筆者のいくつかの中国語論文に基づいたものであり、図表と参考文献は省略する。<br><br>Ⅱ 中国都市地理学の歩み<br><br>中国における都市地理学の研究は、20世紀の前半は主に中国内陸部に関する地誌的な考察が発達した。1949年からは経済地理学的アプローチにシフトしていた。まともな研究が減少し、研究の関心や問題意識が地域開発・経済発展に集中する一方で、歴史的アプローチが次第に重視するようになった。<br><br>1978年以来は人文的研究の許可・解禁および都市計画実務的需要の高まりに伴い、経済地理学者の一部が都市研究および都市計画シンクへの参与が多くなり、例えば地域分析、都市システム分析、都市ビジョン、都市規模の予測、都市機能の空間計画、土地利用の適応性分析などの研究において、地理学者が次第に発言権を握るようになった。<br><br><br>それを背景として、各大学において都市計画ないし経済地理専攻が設立し、研究活動の活発化および実用化が進んだ。この時期における中国都市地理学の性格として、まず応用・実践的・政策志向が強い。欧米の研究成果を絶えずに取り入れて応用する。その上で自らの研究を押し進める。一方で、経済開発志向が強く、理論的研究が弱いと指摘される。<br><br><br>Ⅲ 近年における動向と問題<br><br>まずは都市計画・政策指向の研究が減少する傾向にある。現実問題よりも、欧米文献と理論に沿った「科学的研究」が流行し、欧米の理論的話題に急接近・関心が傾く。<br><br>そして計量方法の導入、流行がみられる。1980年代より主成分分析、クラスタ分析などの方法が応用し、1990年代よりフラクタル分析、エコロジカル・フットプリント分析、ニューラルネットワーク、およびGIS/RSなどの方法を取り入れつつある。 <br><br>第三は理工学的な色付きが濃くなる。人文的研究よりも最新技術を駆使して「科学的」研究に取り組む。<br><br><br>Ⅳ 討論<br><br>欧米からの諸理論を急速に取り入れることによって、中国における都市地理学の研究方法や問題意識に多様化がみられ、その一方、都市地理学のアイデンティティとはなにかが問われる。実務指向と理論指向、理工指向と人文指向など、複数の研究スタイルが併存し、中国都市地理学がますます戦国時代に入ったようにみられる。誰が、どのように、都市地理学の研究成果を評価するのかが常に議論される。そこで、既存の欧米理論の応用を重視する外生派と理論よりも調査ないし事実発見が重視される内生派という二つの学派の分割が次第に見えてくる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671665152
  • NII論文ID
    130005490142
  • DOI
    10.14866/ajg.2015a.0_100026
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ