韓国釜山市における医療ツーリズム事業の展開と地理的スケール

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  • Promotion of medical tourism and the geographical scales in Busan City, South Korea

抄録

グローバル化の進展や高齢社会の到来により,国境を越える医療が我が国においても広く認知されるようになってきた。日本の医療ツーリズム/医療観光(medical tourism)事業は昨年(2010年)にようやく開始され,外国人向け医療ビザの創設や医療観光通訳者の養成など本格的な受入れ体制が整えられつつある。<br> <br> アジアでは,1990年代後半に金融危機に直面した新興国政府が医療ツーリズム事業を外貨獲得の手段として積極的に導入したことが大きな契機となった。欧米諸国に留学していた医師を母国に呼び寄せ,医療部門の大規模な民営化,一部においては営利化を図った。これにより,安くて良質な医療を受けることを目的にアジア諸国へ渡航するというグローバルな移動が欧米諸国の患者たちを中心に広まった。<br> <br> このような流れのなか,隣国の韓国では2009年度から本格的に医療ツーリズム事業に参入し年間誘致外国人患者数が6万人を突破するなど(韓国保健産業振興院 2010),誘致実績を着実に伸ばしている。その事業主体は韓国政府のみならず,地方自治体,医療機関連携など複合的であり,多様な地理的スケールでの釜山市の位置性を利用した事業展開がみられる。そこで本発表では,韓国南部に位置する釜山市の医療ツーリズム事業を取り上げ,国家,都市,病院など,それぞれの地理的スケールに応じて検討し,如何なるコンテクストのもとで釜山市の医療ツーリズム事業が展開されているのかを明らかにすることを目的とする。<br> <br>  研究対象地域である釜山市は,コンテナ取扱量世界第5位の国際港(東アジアのハブ港)と11カ国への国際線を運航する国際空港を保有する国際都市である。同市は海外旅行が自由化していなかった時代には,韓国のリゾート地として高級ホテルやカジノなどの観光資源を蓄積してきた歴史を持つ。現在,各自治体のなかでいち早く医療ツーリズム事業を推進し,188の病医院が外国人患者誘致医療機関として保健福祉家族部に登録されている(2010年12月時点)。とくに,市内交通の結節点である西面(ソミョン)一帯に医院の集積がみられる。国籍別に受入れ外国人患者数をみると,韓国全体ではアメリカ,日本,中国の順であるのに対し,釜山市ではロシア,中国,日本の順で,他地域に比べてロシア人の流入が多いのが特徴である。

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  • CRID
    1390282680671724032
  • NII論文ID
    130007017658
  • DOI
    10.14866/ajg.2011s.0.80.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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