秋田駒ヶ岳笹森山における地すべり地形の形成とオオシラビソ林の成立過程

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  • The landslide formation and formation process of Abies mariesii forest in Mt.Sasamariyama, Akitakomagatake, northeastern Japan

抄録

1.はじめに 東北地方の亜高山帯では、一般にオオシラビソ(Abies mariesii)を主とする亜高山帯針葉樹林が成立すると言われている。しかし、秋田駒ヶ岳の亜高山帯にはササや灌木が生育し、亜高山帯針葉樹であるオオシラビソ林は小林分で存在する。この理由について花粉分析の研究から、秋田駒ヶ岳では約600年前以前はオオシラビソ林の花粉が全く検出されずそれ以降に増加することから、現在オオシラビソ林が分布拡大途上であることが原因と考えられている( 守田,1985)。一方で、秋田駒ヶ岳南部の笹森山に分布するオオシラビソ小林分は地すべり地内に分布しており、地すべり地形の形成によって成立した可能性がある。したがって、オオシラビソ林の成立条件や成立時期を考えるためには、花粉分析のみならず成立基盤となる地形についての理解も必要である。そこで本研究は、地形分類図と植生分類図を作成し、オオシラビソ林の立地条件を検討した上で、地すべり地形の形成時期を明らかにし、オオシラビソ林の成立過程について考察を行った。 2.研究方法 航空レーザ測量データより得られた1 mDEMからArcGISを用いて斜度図と段彩図を作成した。これらを重ね合わせた地形表現図(土志田, 2007)より地すべり地内の微地形を分類した。植生分類には、オルソ化空中写真を用いた。現地では、地すべり地形とオオシラビソ小林分を縦断する測線において、地形断面図の作成と植生および土壌水分調査を行った。土壌水分調査には、(株)中村理科工業のTDR土壌水分測定器を使用した。さらに地すべり地形の形成時期を明らかにするためにシンフォールサンプラーを用いてボーリング調査と試坑掘削を行い、断面の記載を行った。ボーリングコアから得られた土壌と木片試料については、株式会社加速器分析研究所に依頼し放射性炭素年代測定を行った(現在測定中)。 3.結果 地すべり地形は秋田駒ヶ岳、笹森山北部の標高1400 mに滑落崖の最高点をもつ。移動体は標高1240~1160 mに位置し亜高山帯(本調査地域では標高1100 m以上)に含まれる。地すべり地形は明瞭な滑落崖と移動体、さらに滑落崖からの岩屑によって形成される崖錐で構成される。移動体には複数のガリーと副次的な滑落崖、移動方向に直行した小崖地形が認められる。判読上では地すべり凹地は認められない。 オオシラビソ林は移動体の特に平滑な斜面部分に分布する。移動体に成立するオオシラビソ林は高標高域でササと混交し低標高域でブナと混交するが混交域は狭く、明瞭な植生変化が認められる。オオシラビソ林とブナ林の境界に地形的な変化は見られないが、オオシラビソ林とササは崖錐と移動体の間が植生境界となっている。 現地での植生調査では、オオシラビソ小林分の内部において胸高以下のオオシラビソの稚樹が多数見られたが、林分に隣接するササやブナ林では全く見られない。土壌の体積含水率は、ササやブナ林に比べてオオシラビソ小林分内の方が相対的に高い値を示す。 崖錐での土壌断面は、最下位に暗灰褐色の粘土をマトリクスにもつ凝灰質の角礫層、その直上に青黒色スコリア、黄褐色細粒火山灰、黒色砂質火山灰の特徴的なフォールユニットを持つAk-3テフラ(2.5-2.8 ka)が成層して累積する。Ak-3の上位にはローム質土層と砂質粘土層が載り、粘土層の間にTo-aが認められる。移動体で採取したSS1とSS2のボーリングコア試料でも崖錐で観察した土壌断面と同様の層序が認められ、現在この移動体は安定しているものと考えられる。一方、地すべり地形と近接する崩壊を受けていない斜面にはAk-3の下位にAk-6テフラ(7.1-7.2 ka)が厚く被覆していることから、この地すべり地形は約7000~3000年前の間に形成されたと考えられる。また、SS2コア試料の角礫層とAk-3テフラの間の腐植層に狭在していた木片は、樹皮の特徴からオオシラビソであると考えられる。 4.考察 以上の結果から考えられる秋田駒ヶ岳笹森山におけるオオシラビソ林の成立過程について以下に述べる。(1)地すべり発生以前はササや灌木を主とする植生が成立していたが、(2)約7000~3000年の間にすべりが発生したことによって水文条件が変化し、移動体上に湿性な環境が形成された。(3)その後湿性な環境にオオシラビソが侵入し、現在見られるような林分を形成した。このことから、地すべり地形の形成により従来のササや灌木を主とする植生ではなく、オオシラビソ林が成立するようになったと考えられる。<br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671725056
  • NII論文ID
    130005489866
  • DOI
    10.14866/ajg.2015s.0_100051
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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