鳥取県湖山池沿岸の沖積低地における縄文海進高頂期以降の環境変遷

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Environmental history of an alluvial lowland around the Lake Koyama-ike since the highest sea level stage of the Jomon transgression

抄録

I はじめに<BR>  湖山池は砂丘によって日本海から分離された海跡湖で,その沿岸部には小規模な沖積低地が発達する.湖山池周辺の地形環境については,既存研究で更新世後期以降の概略的な変遷過程が復元されているものの,完新世中期~後期の詳細な変化は明らかになっていない.本研究では,湖山池の成立過程と湖水環境の変遷を明らかにするため,湖山池南東岸の沖積低地を対象として計2地点(以下,現在の湖岸線から内陸側へ380 mの調査地を「地点A」,170 mの調査地を「地点B」と呼ぶ)での浅層堆積物の観察,堆積物中に含まれる珪藻化石群集の分析,14C年代測定を実施した.14C年代測定値の暦年較正には,IntCal04をデータセットとして使用した.<BR> II 地形概観<BR>  湖山池は,北側を更新世および完新世に発達した砂丘群によって限られ,東岸が千代川の沖積低地に面する東西約3.5 km,南北約2.5 kmの汽水湖である.湖の南側~西側は山地に接しており,それらを開析して複数の沖積低地が発達する.本研究で対象とするのは,鳥取市高住地区に広がる幅最大0.3 km,奥行き約1.8 kmの沖積低地である.<BR> III 堆積物の特徴<BR>  高住地区の沖積低地の浅層堆積物は下位から,極細砂混じりのシルト層,砂層,シルト層からなる.極細砂混じりのシルト層は標高-2.8 m以深に認められ,標高-4.0~-4.5 m付近では内湾潮間帯に棲息するコゲツノブエCerithium coraliumの化石を多産する.その上位の標高-1.5~-2.8 mには,小礫や植物片混じりの中~粗砂からなる灰色砂層が認められる.砂層と極細砂混じりシルト層の境界は遷移的で不明瞭である.標高-1.5 m以浅は有機質な茶褐~暗褐色シルトと灰色シルトの互層が認められる.茶褐~暗褐色シルト層の一部には泥炭が認められる.また,地点Aでは標高0.5~1.0 mの灰色シルト層中にトリネコとみられる立株が多数認められた.シルト層下部では,地点Aで標高-1.14 mから6950-7170 calBP(木片;6170±40 yrBP,誤差2σ)および標高-0.74 mから6790-6990 calBP(木片;6040±40 yrBP),地点Bで標高-0.92 mから4510-4650 calBP(土壌;4080±30 yrBP)の年代値が得られた.<BR> IV 珪藻化石群集の分析結果<BR>  珪藻化石群集の分析は2~10 cm間隔で検鏡を行い,200~300殻程度を目安に同定・計数を行った.その結果,上述の層相区分にほぼ対応して珪藻化石群集が異なることが明らかになった.<BR>  極細砂混じりのシルト層では海水棲浮遊性種のCyclotella striataや海水棲付着性種のCocconeis scutellumが多産し,内湾の堆積物と推定される.その上位の砂層からは汽水~海水棲種のCocconeis scutellumや淡水~汽水棲種のRhopalodia gibberulaが産出する.最上位のシルト層は調査地点によって特徴が異なる.地点Aでは,Pinnularia属,Eunotia属などの淡水棲種が多産し,湖岸の低湿地の堆積物であると推定される.他方,地点Bでは珪藻化石群集の特徴から,標高-1.0 mと±0.0 m付近を境界として3層準に区分される.標高-1.0 m以深では淡水~汽水棲種のStaurosira construensSynedra tabulataが多産し,汽水池沼の堆積物であると推定される.標高0.0~-1.0 mでは淡水棲浮遊性種のAulacoseira属が優占し,淡水池沼の堆積物と推定される.標高0.0 m以浅ではEunotia属が多産し,陸域の湿地の堆積物と推定される.<BR> V 湖山池周辺における縄文海進高頂期以降の環境変遷<BR>  高住地区の沖積低地では,約6900 calBP以前の層準から海水棲浮遊性や海水棲付着性の珪藻が多産する.したがって,湖山池周辺では,この頃までに縄文海進高頂期を迎え,海水の影響の強い内湾が広がっていたことが明らかになった.<BR>  その後,高住地区の堆積物からは淡水~汽水棲の珪藻が卓越して産出するようになる.この変化を引き起こした要因としては,以下の2つが考えられる.すなわち,第一に開析谷の埋積が進行して,河口部が前進したことによって生じた局所的な湖水の塩分濃度の減少,第二に臨海部における砂丘の発達,もしくは千代川沖積低地の発達に伴って,海域から隔離された半閉鎖的な環境が形成〔湖山池の成立〕されたことによる湖水の塩分濃度の減少である.<BR>  約4600calBP以降の高住地区では淡水環境が続き,湖の埋積が進むとともに湿地や森林が拡大した.湖山池沿岸の低地では,こうした過程を経て陸域が拡大していったことが示唆される.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671962240
  • NII論文ID
    130007017855
  • DOI
    10.14866/ajg.2011s.0.238.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ