北陸新幹線開業後の地域変化

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タイトル別名
  • Regional changes after development of the Hokuriku Shinkansen
  • 長野・上越・高岡の現状と課題
  • A study in Nagano,Joetsu and Takaoka City

抄録

北陸新幹線・長野-金沢間が2015年3月に開業し、1年余りが経過した。東京-金沢間が2時間半まで短縮され、利用の代表的な指標とされる上越妙高-糸魚川間の乗客が在来線当時の約3倍に増加するなど、開業は「成功」したとの評価が一般的である。 ただし、恩恵は沿線に一律に及んでいる訳ではなく、停車駅の所在地や地域によって、新幹線がもたらした変化は多様である。本研究では各種公表データ、および発表者が2016年7月に実施したフィールドワークに基づき、開業後1年を経過した沿線のうち、新幹線の終着地点でなくなった長野市と、新幹線駅が郊外に立地し最速列車「かがやき」が停車しない新潟県上越市、富山県高岡市に着目して、新幹線開業が市民生活やまちづくりに及ぼした変化について、速報的な状況確認と課題整理を試みる。<br> <br> JR西日本の資料によれば、上越妙高-糸魚川間の利用水準は2.2倍増を想定しており、実勢は予想を大きく上回る。初年度の増収効果は想定の2倍以上、265億円超に達した。2016年度は前年割れが続いているが、開業に伴う特需が一段落したことが要因とされ、地元で深刻視する空気は薄い。なお、長野県のまとめによれば、県内各駅の利用者数は、2015年度は全駅で前年を上回った。<br><br> 長野市は、開業の直後、6年おきに開催される「善光寺御開帳」があり、その効果で入込客が増えた。2016年に入ってからは大河ドラマ「真田丸」ブームが追い風となり、2017年にはさらに、信州デスティネーションキャンペーンが控える。 長野市などへの聞き取りによれば、外国人客も増えたが、北陸地方からの来訪者が大きく増加しているとみられる。富山・石川ナンバーの乗用車をよく見かけるようになったという証言もある。北陸から新幹線で長野市エリアを訪れた人々が乗用車で再訪するなど、開業に伴う心理的距離の短縮が、新幹線以外の交通手段による再訪を誘発している可能性があるという。地銀系シンクタンクの調査によれば、バスを利用した周遊型観光も活発化している。<br><br> 地元では開業前、長野駅の「通過駅化」が強く懸念されていた。その不安が反転する格好で、北陸との紐帯の構築が歓迎され、北陸地方がビジネスの対象地域としても注目されている構図である。<br><br> 上越市では何点か注目すべき状況を確認できた。「関西や名古屋からの来訪者が想像以上に多く、専ら首都圏に目が向いていた同市が、東西の結節点としての様相を帯びてきた」という証言を得た。市街地の南端に位置する上越妙高駅前は、更地が広がっていたが、2016年6月、地元の起業家による斬新なコンテナ・ショップがオープンし、来訪者のみならず地元の消費・交流の場として定着しつつある。さらに、県境を越えて長野県側と人的ネットワークをつくる取り組みも始まっている。他方、「かがやき」が停車する「首都圏-長野-富山-金沢」ラインのつながりが強まる中、歴史的に交流の深い長野市との連携が相対的に弱まる可能性もはらんでいる。<br><br> 高岡市は、新高岡駅の郊外立地が市民の不興を買っていたが、駅前にホテルや飲食店の建設が進んでいる。駅に隣接する大型ショッピングモールは増床を計画中である。他方、中心市街地に位置する高岡駅前では専門学校の建設が進み、同市に本店を置く地銀も、駅前に本店を移転新築する予定という。ただし、同駅前の地下街では、開業2年目で撤退する店舗が相次ぐなど、懸念材料もある。 <br><br> このほか、富山県内では、東証一部上場のゴールドウイン(本社・東京)が小矢部市に本社機能の一部移転を検討するなど、産業面の変化も続いている。また、富山市はコンパクトシティ政策を強化する施策の一環として、マルチハビテーション(多地域居住)に対応した住宅購入費の支援事業を始めており、数例の利用実績がある。<br><br> 整備新幹線の開業をめぐっては「どのような指標に基づき、どのような空間的スケール・区分を単位として、誰をステークホルダーと位置付け、何をどう論ずるべきか」という整理が必ずしも確立しておらず、筆者自身もその整理に到達できずにいる。しかし、鉄道の利用動向や観光客の入込数といった既存の統計的指標にのみ依拠するのではなく、フィールドワークなどに基づく、都市や駅勢圏を基本単位とした観察・調査、さらには新幹線を利用しない住民のマインドも考慮した検証作業の重要性をあらためて確認できた。 なお、長野市では、九州新幹線沿線の鹿児島市、福岡市と同様、駅周辺の開発が進展する一方、既存商業地区との競合が激化しており、「駅ナカ」「駅直近」への商業集積が、まちづくりに及ぼす影響について、あらためて論点整理が必要な状況を確認できた。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672112128
  • NII論文ID
    130005279734
  • DOI
    10.14866/ajg.2016a.0_100047
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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