長野県の郷土料理における地域的特性の比較

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Comparison of the regional characteristic in local dishes of Nagano prefecture

説明

郷土料理は以下のように定義されている(木村,1974)。<br>(1)ある地域に古くから行われている食形態で他地方にはみられない特色をもち、その発生が明治以前であるものである。ただし、北海道に限り明治末期までに備わった食形態を取り上げる。<br>(2) 現在は比較的広範囲の各地の人々に食されているが、江戸時代までは限られた範囲の地域の民衆生活のみ定着していた食形態であるものである。<br> また、郷土料理は地方の特産品をその地方に適した方法で調理したものである(岡本,1987)。その中で、食の暮らしの知恵が育まれ、おいしく健康に良い食べ方などが工夫されている(成瀬,2009)。種類や調理方法における地域性は、地形、気候、地域ごとの生産物といった自然的要因だけでなく、地域の人々の気質、宗教、産業技術の発達状況、時代・地域社会の思潮などの人為的要因によっても形成される(石川,2000)。そして、郷土料理のタイプは<br>(1)その土地で大量に生産される食べ物をおいしく食べようと工夫したことにより生まれたもの<br>(2)地方の特産物を利用してできたもの<br>(3)その地方で生産されない材料を他地域からもってきて、独自の料理技術を開発して名物料理に仕上げたもの<br>に分類される(安藤,1986)。さらに、郷土料理は伝統行事に欠かせないものにもなっている。しかし、生活様式の変容などにより、その地域性が失われつつある(成瀬,2009)。<br> 長野県の郷土料理の一つであるおやきはもともと長野県北部の農村の発祥である。かつて、囲炉裏の灰で焼いたことから「お焼き」と名付けられた。作り方は味噌で味付けしたナスなどの野菜を餡として小麦粉の皮で包み、蒸すあるいは焼く。その後、1982年におやきが手打ちソバ、御幣餅、スンキ漬、野沢菜漬とともに「食の文化財」に指定された。現在では、長野市、小川村をはじめおやきの専門工房や販売店が県内全域の広範囲に多数存在している。その上、おやきは地域差が県全域を通じて見られ、地域性がよく見られるのも特徴である。<br> おやきに関する研究では、ある特定の地域における特性は明確になっているが県内全域でのおやきの実態、特性を示す研究は少ない(水谷ら,2005)。故に、長野県内の中でどのような差異や共通点があるのかも不十分であり、おやきに関する明確なデータも少ない。<br> そこで、本研究では長野県全域を調査地域として、各地域におけるおやきの特性について比較調査するとともに、なぜ地域差が見られるのかを明らかにする。また、考察の際に五平餅との比較も取り上げる。<br> 結果として長野県内は北信、中信、東信、南信の4つの行政区分である。調査方法は主に文献調査、聞き取り調査(25店舗)、おやきの購入・試食、写真撮影による。<br> 北信地方で119店舗、東信地方で27店舗、中信地方で49店舗、南信地方で20店舗、計215店舗あることがわかった。特に、北信地方だけでも全体の約5割をも占めている。東信・南信では店舗自体は非常に少ない。<br> おやきの製法には、蒸かし、焼き蒸かし、焼き、揚げ焼きなどの種類がある。北信では小麦粉の味を生かしたおやきで蒸かしたものが多い。しかし、長野市から離れた山村地域に行くと、ほうろくの上にのせて焼く製法が見られる。東信地方では、蒸かす製法が多い傾向にあり、主に上田市に多く店舗が集中している。中信は南北に差異があり、北側は昔ながらの焼き製法、南側は蒸かし製法で作られている。南信では生地に砂糖を入れ甘く仕上げて、ふくらし粉を使用し蒸かす。<br> 全域を通してノザワナ、ナス、小豆あんである。また、山菜やクリなど地域でとれた素材を生かして作っている場合が多い。<br> 考察に関して、穀物において、米は盆地の河川流域に集中している一方で長野盆地には水田地帯が少なく畑作を行う傾向にある。小麦は、松本、安曇野で最も多く、全体的に収穫量は北側に集中していることから北側を中心に小麦の文化が定着しているといえる。また、県内では穀物を粉状にして食べる工夫が自然にできる環境にあった。<br> 北部ではおやきをお盆に食べ、南部では11月20日のえびす講で、あんこを多く入れたおやきを作って供える。このようにおやきを食べる習慣が各地域により異なる。<br> 五平餅とは南信地域で食べられる郷土料理のことである。名前の由来は、五平が始めた、神前に供える御幣の形に似ていることなどがあげられる。作り方はうるち米のみを使用して焼く。<br> 五平餅は、「塩の道」である伊那街道沿いの地域に分布しており、終点は塩尻で南北の分岐点となっている。それを境に、南信地方では五平餅文化が存在している。そのため、南信地域にはおやき店舗よりも五平餅店舗の方が多い。その一方で北信地方では五平餅店舗は見られない。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672136704
  • NII論文ID
    130005279756
  • DOI
    10.14866/ajg.2016a.0_100058
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ