北アルプス北部における高山湖沼の分布と成因

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  • The origin and spatial distribution of alpine ponds in the northern part of the Northern Japan Alps

抄録

高山地域にある湖沼は水生植物の生育場所や水生昆虫、魚類、両生類等の生息場所となるほか、水域の分布が限られる高山地域において、これらの湖沼が高山を生息・利用の場所とする鳥類や哺乳類に対しても、貴重な水場を提供していると考えられる。本研究では、高山湖沼の特性や生態的機能の解明を目指す第一歩として、北アルプス北部地域を対象に高山湖沼の分布の特徴や成因について検討を行ったので、その結果を報告する。 本研究では佐藤・苅谷(2008)による北部飛騨山脈地すべり地形学図(1/25000)が作成された範囲のうち、標高2000m以上の地域を調査対象とした。本地域には、堆積岩類の分布域を中心に地すべり地形が卓越し、稜線から山腹斜面にかけて線状凹地や低崖が多数観察される。空中写真(1976・1977年撮影,カラー,1/15000)の判読および現地調査によって、対象地域における湖沼の分布図を作成した。 対象地域内には94個の湖沼が判読された。このうち白馬大池を除くと全て6000_m2_より小さく、大半は1000_m2_に満たない小規模なものであった。これらの湖沼の分布と地すべり地形学図との対応関係をみると、60個は地すべり移動体内部の凹地内か、移動体の外縁に位置していた。また、移動体の外部にある湖沼のうちの28個は、稜線付近から斜面中腹にかけて存在する線状凹地の内部や、尾根向き低崖の近くに位置していた。これらの線状凹地や低崖は重力性岩盤クリープによる山体変形で生じた正断層に由来すると考えられる。したがって、94個の湖沼のうちの88個は、いずれも地すべりの発生を契機として形成されたものと考えられる。また、地すべりと直接の関係のない6個は、白馬大池とその東方にある天狗原の内部に位置するもので、乗鞍岳溶岩の噴出にともなう堰き止め(白馬大池)や、溶岩台地上の凹地に形成されたものである。 ALOS(2007年6月23日撮影)から推定される残雪域と比較すると、地すべり移動体内部の凹地や移動体外部にある線状凹地などは残雪域となっており、94個の湖沼のうち82個は残雪域内に位置していた。地すべりによる小地形が残雪域の偏在性に関わり、融雪による地下水涵養が湖沼形成に関与していることが示唆される。 しかし、同様の小地形が存在する全ての場所に湖沼が形成されているわけではなく、涵養域の面積や風化物質の粒径に関わる地質などの条件も重要であると考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672182272
  • NII論文ID
    130007017926
  • DOI
    10.14866/ajg.2011s.0.137.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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