日本におけるユネスコエコパーク(生物圏保存地域)の現状と問題点

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  • The current status and problems of Biosphere Reserves in Japan

抄録

1.MAB計画とユネスコエコパーク(生物圏保存地域) <br> ユネスコエコパークは、ユネスコの人間と生物圏(MAB; Man and the Biosphere)計画の一事業である生物圏保存地域(Biosphere Reserve)の日本における通称である。MAB計画は、生物多様性の保全と豊かな人間生活の調和および持続的発展を実現するために1971年に発足した国際協力プログラムで、1976年より貴重な陸上及び沿岸生態系を生物圏保存地域として指定する事業を進めている。2017年3月現在、120カ国、669地域が登録されている。 <br> ユネスコエコパークは広い意味での自然保護区である。各国の法制度によって保護が担保されている学術上重要な自然を「核心地域(core area)」、その周りを覆う「緩衝地域(buffer zone)」、そしてさらにユネスコエコパークの最大の特徴である、人々が生活する「移行地域(transition area)」が設定される。一般的な自然保護制度とは異なり、自然環境保全型の産業の振興や環境教育などを通じた地域社会の発展を促し、それによって、住民らが地域の自然を自らの社会・文化的資本として守る意識を育むこと、また地域や世界的課題を解決するための学術研究に資する場として期待されている。   <br><br> 2.日本のユネスコエコパークの現状と歴史 <br> 日本では7地域がユネスコエコパークに登録されており、2地域が審査中であり、さらに複数地域が申請準備中である。日本では国立公園(環境省)の特別保護地域や森林生態系保護地域(林野庁)の保存地区を核心地域として、それ以外の保護が優先される公有地を緩衝地域、農地や市街地など民有地が多いエリアを移行地域とするのが概ねのパターンである。空間的な規模は、市町村単体もあれば県をまたいで10以上の自治体に広がる場合もある。文部科学省の中に事務局を置くユネスコ国内委員会(National Commission)とその下にあるMAB計画分科会(National MAB Committee)が制度の統括を行う。 <br> 日本では1980年に屋久島,大台ヶ原・大峰山、白山、志賀高原の4カ所が登録され、32年ぶりに2012年に宮崎県綾地域が、2014年には福島県只見地域、山梨、静岡、長野県の3県に跨る南アルプスがそれぞれ新規登録を果たしている。さらに、みなかみ地域、祖母・傾・大崩地域の国内推薦が2016年に決定し、ユネスコに申請書を提出した。1980年登録の既存4地域の移行地域設定を含む拡張申請についても、2014年には志賀高原が承認され、2016年には、白山、屋久島・口永良部島、大台ケ原・大峯山・大杉谷が改名も含めて承認された。   <br><br> 3.各地域のユネスコエコパークへの取り組み<br> 綾や只見地域が新たな生物圏保存地域として認定される際に最も評価された点は、地域住民と地方自治体が一体となった環境教育や有機農業などに対する継続的な取り組みであった。また、南アルプスの登録についても10もの自治体が協力して山岳環境保全へ取り組んでいる点が高く評価されている。このようなことから、自然環境保全と自然環境保全型の産業の振興に取り組みを軸として、新規登録を目指そうと地域も現われている。しかし、一方でユネスコエコパークの理解が不十分であるために、取り組みが十分とは言えない地域や自治体も存在する。各自治体におけるユネスコエコパークの窓口部局は、自治体によって異なっており、自然環境保全部局、教育部局、農業振興部局、総合政策部局など多岐にわたる。その中でも特に観光部局に窓口を設けている自治体が多いが、そのような自治体の中にはユネスコエコパークの取り組みを観光振興の一つのツールと捉え、観光客誘致のPR活動としてのみ利用し、自然環境保全への取り組みが遅れている地域も存在する。 <br> このような状況が生まれている最大の理由は、ユネスコエコパークの本質の無理解が原因であり、他の制度同様に正しい制度理解を進めていく必要性は極めて高い。そのためにも国内のユネスコエコパークのネットワーク組織である日本ユネスコエコパークネットワーク(JBRN)において、各ユネスコエコパークでの取り組みを共有し、日本におけるユネスコエコパークの質を高めていくことが期待される。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672224384
  • NII論文ID
    130005635785
  • DOI
    10.14866/ajg.2017s.0_100181
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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