多摩川低地の沖積層における人工改変の定量的評価

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  • Quantitative evaluation of artificial change in the incised-valley fill of the Tama River Lowland, central Japan

抄録

沖積低地は、最終氷期最盛期に形成された谷地形が、現在にかけての海水準変動や地殻変動の影響を受けながら、主に河川からの土砂供給により埋積されてできた堆積地形である。完新世後期には、人間活動の影響による土砂供給量の増加がデルタの活発な前進に寄与してきたと指摘されている。一方、陸域の拡大においては、近代以降の人間による直接的な土砂の堆積の影響も大きい。そこで、本研究は、多摩川下流低地を対象に、既存ボーリング柱状図を空間解析することにより、沖積層の体積を定量化し、低地における人為的な土砂移動量を評価した。<br> 多摩川下流低地の沖積層を、既存柱状図の土質区分とN値に基づいて、下位から、基底礫層(BG)、下部砂層(LS)、中部泥層(MM)、上部砂層(US)、沖積陸成層(TSM)、人工改変層(ADと定義)の6層に区分し、地層境界面の標高データベースを作成した。これらのデータをArcGISにポイントデータとして取り込んだ後、クリギングを用いて補間し、地層境界面サーフェスモデルを構築した。また、各種データを用いて、前述と同様の処理を行い、地表面サーフェスモデルも作成した。最終的に、各サーフェスモデル間で切り盛りをし、各層の体積を算出した。<br> AD下限の標高は、0 m以上の地域と0 m以下の地域が確認でき、それぞれ現在の氾濫原・三角州、干拓地・埋立地が分布する地域にほぼ一致する。また、標高-5 m以下では、標高-5 m以上の地域に比べて等高線の間隔が狭く、標高-5 m付近がもともとの三角州の頂置面と前置斜面との境界にあたると考えられる。低地(232 km2)の沖積層のうちBGを除く体積は5,262 Mm3(M=×106)で、各層が占める割合は、LS約25%(1,337 Mm3)、MM37%(1,965 Mm3)、US18%(943 Mm3)、TSM7%(341 Mm3)、AD13%(676 Mm3)となった。放射性炭素年代値に基づけば、MM以浅の堆積年代はおおよそ8,000 cal BP以降と推定される。沖積層に占めるADの割合は、濃尾平野(約4 %)に比べて大きい。ADを陸域(干拓地・埋立地を除く)(99 km2)と海域(干拓地・埋立地を含む)(133 km2)に分けると、それぞれの堆積量は197 Mm3、479 Mm3となる。まず、陸域のADについて考える。首都圏の低地の平均表層撹乱深(開発地において平均何m表層が撹乱されているか)は1 m程度と推定されている。この撹乱された表層が盛土であるとすれば、これは本研究のADに相当すると考えられる。陸域の面積99 km2に平均表層撹乱深1 mを乗ずると、堆積量99 Mm3と算出される。この値は、前述の陸域におけるADの堆積量の半分である。しかし、本研究で使用した柱状図(2,615本)から読み取ったADの平均層厚(±1σ)は1.5±1.2 mであり、この値を用いると、99 Mm3よりも大きくなる。したがって、本研究の値と既存研究の結果から求めた値との差は、精度の違いによる可能性が高い。干拓地は浅瀬を干上がらせて陸地にするため、海域のADの多くは埋立てに使用された土砂であると考えられる。既存研究により、大田区、横浜市、川崎市において1955年以降に造成された埋立地の面積は約59 km2、東京港付近の埋立地の土砂は厚さ5~15 mと報告されている。多摩川下流域における埋立地の土砂の厚さもこれと同様であるとすれば、大田区、横浜市、川崎市の埋立地の体積は295~885 Mm3と算出される。東京湾岸の埋立ては、主に明治時代以降から行われており、実際の埋立地の体積はこの値よりも大きくなると考えられるが、本研究の計算範囲は、横浜市の鶴見区以外の地域は入っていない。これを踏まえると、本研究で算出した埋立地の体積は妥当な値だといえる。海域のADのほとんどが明治時代以降のものであるならば、これは少なくとも最近100~150年間に人為的な影響で堆積したものと考えられる。陸域のADの厳密な形成年代はわからないものの、1950年代の大規模住宅用地開発はほとんど低地や台地で行われていたことを踏まえれば、ADには戦後の都市開発にかかわる土砂が多く含まれると推定できる。したがって、ADは、ほぼ最近100~150年間に人間の作用によって堆積した堆積物といえる。ADの堆積量(676 Mm3)と過去8,000年間の堆積土砂量(TSM、US、MM:3,249 Mm3)とを比較すると、ADの堆積量は過去8,000年間の堆積土砂量の21%に相当する。これは、近代以降の人間による直接的な土砂の堆積が、103年スケールの河川による土砂の堆積に匹敵することを示している。したがって、沖積低地の形成という観点において、人為的な影響を無視することはできない。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672511872
  • NII論文ID
    130007018037
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100248
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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