干ばつは放牧にいかなる影響を与えるか?

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タイトル別名
  • How drought affects livestock herding?
  • ナミビア北中部におけるウシ放牧のGPS解析
  • Long-term GPS data analysis of the cattle herding in North-central Namibia

抄録

はじめに <br>2014/15年の南部アフリカにおける少雨は,同地域に深刻な干ばつをもたらした.この干ばつにより多くの地域で農業被害が報告されている.干ばつが生業牧畜における放牧の動態にいかなる影響を与えるかに関しては,断片的な記述は蓄積されているものの,定量的な解析が十分に行われてきたとは言いがたい. 本発表は,ナミビア北中部におけるウシ放牧の長期間の位置情報をもとに,今年度発生した干ばつによって,放牧場所がどのように変化したかを検討することを目的とする.<br><br>方法<br>調査地はナミビア共和国北中部のオシコト県,オムシヤ地域にあるオナカシノ村である.降水量は年変動が大きく,近郊に設置した雨量計によると2012/13年の雨季は年降水量が390mm,2013/14年の雨季は449mmであったのに対して,今年度は169mmであった.対象地域には農耕をしながら家畜を飼養する農牧民オヴァンボが居住しており,多くの世帯がウシを飼養している. GPS首輪(VECTRONIC Aerospace社製)を対象世帯のウシ一頭に取り付け,休息する夜間を除いた時間に10分間隔で位置情報を取得した.そしてエラー値を除去したデータを,GISおよび統計解析ソフトを用いて解析した.利用したデータは13年5月1日から15年10月31日までのものであり,5月から10月を乾季,11月から翌年4月までを雨季と便宜的に区分した.また,期間中に土地利用や家畜管理等に関する現地調査を複数回実施した.<br><br>結果と考察 <br>ウシの日別移動距離の平均は8.2kmで,季節によって距離の長短が異なっていた.すなわち,耕作地に作物が植えられている雨季は一日の移動距離が増大する一方で,耕作地で放牧することが多い乾季は移動距離が短いという傾向がみられた.土地利用との関係も上記と対応しており,雨季には共有放牧地を利用する傾向が高かった.一方で乾季には世帯敷地内,もしくは他世帯の私有地において刈り跡放牧を行う割合が高かった. 乾季の平常年と干ばつ年の差を検討すると,放牧距離は干ばつ年に増大する傾向がみられた.土地利用との関係をみると,13年と14年の乾季(平常年)は,私有地の利用割合が放牧場所の80-90%を占めていた.一方で,15年の干ばつ年には私有地の利用は45%程度と少なかった.そして共有放牧地の利用が40%以上と高くなっていた. これらの結果から,干ばつ年には村内の私有地における農作物の残渣や雑草といった採食資源が早期に枯渇し,それにともなって放牧場所が共有放牧地に移ると考えられる.放牧場所が早期に私有地から共有地に移動することは,その後の共有放牧地における採食資源量の減少につながるばかりでなく,耕作地への糞尿の投入量の大幅な減少につながり,耕作地の栄養状態を悪化させる.したがって,干ばつは,家畜の頭数や糞尿の散布場所の変化を通じて,農業生産へ長期的な悪影響も有することが示唆された.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672559616
  • NII論文ID
    130007018066
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100210
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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