降雨侵食と隆起による実験地形発達における降雨強度の影響

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  • Effects of rainfall intensity on the development of experimental landform

抄録

<br><br>はじめに<br> これまでに行ってきた地形発達実験の中から、実験地形のサイズ、隆起速度、堆積域の幅、透水性、などがほぼ同一で降雨量の異なる2つのrun (runs 26 and 27)をとりあげ、降水量の違いが実験地形の発達に与える影響について考察する。<br><br>1.実験設定<br> 可動式の底板をもつステンレス製のコンテナ(大きさ約60×60×40cm)に細砂とカオリナイトの混合物(重量比10:1)を詰めて突き固め、底板の下に設置した隆起装置によってゆっくり隆起させると同時に霧状の人工降雨によって侵食を起こす。<br> <br>2.実験経過<br> run26、27ともに実験開始後しばらくは始原面が隆起によって上昇し、流水による侵食が60×60cmの隆起域の周りに細かい溝を発達させていく。この間、隆起域の平均高度はほぼ隆起分だけ上昇する。run27では40時間ころから、run26では80時間ころから表面流による谷の発達(ごく小規模な斜面崩壊を伴う)が明瞭になり、平均高度の上昇が隆起より小さくなっていく。この時間差は表面流による侵食がrun27の方が侵食が大きいことを示している。これ以降、run26では峡谷状の谷の発達が顕著であるのに対し、run27では比較的浅く幅の広い谷が発達する。これも、明らかに雨量の違いに起因する表面流侵食量の違いであろう。run26、27とも隆起域の最低点と最高点の比高が約60mmを越えるようになる160時間以降には、斜面崩壊が多く発生するようになり、斜面崩壊によって生産された物質を水流が域外に搬出するプロセスで侵食が進む。侵食速度はしだいに大きくなり、侵食による低下が隆起による上昇をかなり減少させるようになる。この間、谷(水系)の発達は継続し、run26では400時間、run27では130時間、には始原面の痕跡もなくなる。このころになると水路はほぼ安定し、斜面崩壊によって生産された物質を隆起域外に搬出する働きが中心となる。また、これ以降は比較的大規模な斜面崩壊が頻発するようになり、地形変化の多くはこのような大規模斜面崩壊が中心となる。大規模斜面崩壊は周期的に集中して起こる傾向見せ、隆起域全体の地形は大規模崩壊による低下と隆起による上昇を繰り返すようになる。平均高度はほぼ一定の値の周りをある範囲で上下する。平均高度は崩壊による物質が域外に搬出されない限り低下しないので、平均高度の上下は見た目より小さい。この状態を隆起と侵食の“平衡状態”と考えることも可能であろう。ただし、この“平衡状態”においては大規模崩壊による地形変化が顕著で、地形的“平衡状態”と言えるかどうかについては疑問が残る。この時の平均高度は降雨量の少ないrun26では約80mm、降雨量の多いrun27では約46mmであった。<br><br>3.考察と今後の課題<br> 2つのrunを比較すると、降雨量の少ないrun26の方が”平衡状態”に至るまでの侵食量が少なく、結果として“平衡状態”における山体高度も大きく(つまり流路勾配も大きく)なった。流水による侵食・運搬作用が山地の高度や険しさを基本的に決定していると考えられそうである。また、run26では明らかな峡谷の発達が見られたが、これはrun26で主要な谷に集中する水流の侵食のみが隆起による上昇を上回っていたことを意味する。降水量(あるいは表面流)の比較的少ない地域で峡谷が発達しやすいことを物語っているのではないだろうか。また、大規模な斜面崩壊が周期的に集中して起こる傾向を見せたが、この集中がどのようなメカニズムで起こるかを解明することは今後の重要な課題の一つである。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672563584
  • NII論文ID
    130007018069
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100213
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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