黒部川源流部における植生変化と温度環境の変化

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • The change of vegetation and temperature environment in Oku-Kurobe area.

抄録

はじめに2011年度の春期地理学会において、演者らは黒部川源流部、北ノ俣岳(2662m)周辺での植生変化について報告を行った。その中で、残雪凹地(いわゆる雪田)とその周辺において、ハイマツなどの木本主体の植生の分布が拡大してきていることを報告した。その一方で、この地域の積雪量が増加傾向にある事も報告した。一般的に残雪凹地では、積雪量が増加すると残雪による被覆期間が長くなるために、木本が減少して草本が増加する傾向がある。つまり、北ノ俣岳周辺での植生変化は一般的な植生変化の傾向と矛盾しているのである。そこで演者らは植生変化の原因を明らかにするために、当該地域における植生を再調査すると共に、積雪環境以外の気象要因について再検討を行った。調査方法植生の変化を検出するために、過去から現在にかけて撮影された空中写真の比較を行った。黒部川源流部を撮影していて植生が判別できる空中写真で最も古い1969年のものと最新の2005年のものを比較した. 植生の変化が認められた地点については、2009年8月、及び2012年9月に植生調査を実施した.気象環境の変化を把握するために、黒部川上流部で永年気象観測を行っている黒部ダムの気象観測記録を関西電力より提供を受けた。その観測資料から、植物の生育に影響を及ぼすと考えられる1.気温 2.年積雪被覆日数 3.夏期・冬期の降水量 4.暖かさの指数(WI) 5.亜高山針葉樹林帯の上限に相当WI15の高度(気温低減率0.6℃/100mで計算)を抽出してその経年変化を検討した。結果 空中写真から、残雪凹地の砂礫地において植生が拡大し、裸地が減少している事が判明した。植生調査の結果、チングルマやミヤマキンパイ、イワノガリヤスからなる草本主体のパッチ状群落の面積の拡大と、ハイマツを主体とする木本主体のパッチ状群落の数の増加が認められた。特にハイマツのパッチは2009年と2012年の比較においても、パッチの高さと専有面積共に拡大している事が明らかとなった。 次に、気象要素の変化を検討したところ、降水量と積雪量は、積雪日数と夏期降水量は横這いだが、冬期降水量が増加傾向にあった(図1)。気温は夏期・冬期共に上昇傾向にあった(図2)。気温の上昇を受けてWIとWI15の高度は共に上昇傾向にあった(図3)。 考察図1から冬期降水量が増加しているものの積雪日数は横這いである事が明らかとなった。これに気温が上昇傾向にある事(図2)をあわせて考えると、積雪量が増加しているにも関わらず、気温の上昇によって融雪速度が上昇したために消雪時期が以前と変わらないということが考えられた。植生変化の要因については、融雪時期は変化していない事から、別の所にあると考えられる。図3から、WIが上昇している事が示され、WI15の高度も約50年で300m程度上昇していることが示された。1990年代以降は北ノ俣岳頂上も亜高山針葉樹林帯に含まれることから、ハイマツが充分に生育可能な環境になってきていると考えられる。以上から、北ノ俣岳の雪田周辺の植生変化は、近年の気温の上昇による立地環境の変化によるものであると推測された。今後は、土壌の水分量や土壌成分の変化などの詳しい立地変化の検討が必要であると考えられる。本研究の一部は環境省地球環境研究総合推進費(S-8-1)の支援を受けて行われた

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672624640
  • NII論文ID
    130005473190
  • DOI
    10.14866/ajg.2013s.0_25
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ