高解像度地表水データでみるブラマプトラ川下流域の水文環境と稲作

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  • Hydrological environment and rice cultivation in the lower Brahmaputra basin

抄録

1.はじめに<BR> ブラマプトラ川の下流域に位置するバングラデシュとインド・アッサム州では主要作物として稲が栽培されている。降雨・河川氾濫による水供給が期待できるため、両地域ともに伝統的に雨季に稲が栽培されてきたが、近年バングラデシュでは乾季稲作(ボロ稲)の栽培面積が急激に拡大している。特に大規模な洪水が発生した1988年、1998年、2007年にボロ稲面積が灌漑面積を上回って拡大していることから、筆者は洪水後の余剰水を利用することで直後の乾季に灌漑を用いないボロ稲の栽培が可能になるのではないかと考えてきた (Asada 2012)。一方で上流側のアッサム州でも同じ年に洪水が発生しているが、ボロ稲はほとんど導入されておらず、モンスーン変動の影響を受けやすい雨季作のみ栽培されている地域が圧倒的に多い。<BR> 本研究では、(1) バングラデシュのボロ稲面積拡大に洪水の余剰水が関係しているのか、(2) なぜアッサム州ではボロ稲が拡大しないのか、について衛星画像を基に作成された高分解能地表水データを用いて考察する。<BR><BR>2.使用データ<BR> 本研究で使用する地表水データ (Land Surface Water Coverage; LSWC) は可視赤外センサ (MODIS) とマイクロ波放射計 (AMSR-E) の情報を組み合わせることで、10 kmの空間分解能で2003年から2010年まで毎日の冠水率を計算したものである。今回は稲作統計と比較するためにLSWCの冠水率を県単位に集計した値を用いた。さらにAPHRODITE’s Water Resources (Yatagai 2012) にて公開されている日雨量データも県単位に集計して用いた。<BR> バングラデシュ、アッサム州の統計資料として、洪水被害面積データ、稲作付面積データ、灌漑面積データを現地機関から入手して用いた。ただしアッサム州各県の灌漑面積データはほとんど整備されていない。データが利用できる期間の制約により、本発表では2003年から2009年までを解析対象とする。<BR><BR>3.結果と考察<BR> LSWCデータは地表水の季節変動を再現しているが、河川や湖沼も含むために、そのまま扱うことは難しい。そこで長期平均値からの偏差をとり洪水被害面積データと比較したところ、雨季の冠水率偏差と洪水被害面積が対応することが分かった。また複数の県で乾季の2月に冠水率が一時的に上昇する傾向が見られたが、これはボロ稲の作付面積に対応することが分かった。しかしボロ稲面積と2月の冠水率との関係は、バングラデシュ沿岸部県、バングラデシュ北東部県では他県と異なる傾向が示された。<BR> 次にバングラデシュとアッサム州の対象43県について、冠水率の長期平均値を基にしてクラスター分析を行ったところ、5つの地域に分類されることが分かった。バングラデシュ沿岸部(クラスターI)、バングラデシュ東部(同II)、バングラデシュ北西部からアッサム西部(同III)、バングラデシュ西部とアッサム中東部(同IV)、アッサム丘陵部(同V)と、ブラマプトラ川下流域から上流域に向かって冠水率とボロ稲比率は漸次的に減少している。各クラスター間の降雨量に大きな差はなく、マクロスケールでは地形条件が冠水率を規定していると考えられる。<BR> さらにバングラデシュの対象20県について、雨季の冠水率偏差が大きい年を抽出し、当該年のボロ稲の変化傾向を調べたところ、特にクラスターⅡの地域で灌漑面積を上回るボロ稲面積の拡大が見られたが、クラスターⅣの地域でも洪水後の余剰水増加とボロ稲面積の拡大が確認された。つまり元々地表水が少ないバングラデシュ西部県でも洪水後の余剰水がボロ稲面積拡大に効いている。同型の地表水変動を示すアッサム中東部県でボロ稲が拡大されないのは、余剰水が生じにくい地質構造に加え社会経済的条件の制約が効いている可能性も考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672639232
  • NII論文ID
    130005473201
  • DOI
    10.14866/ajg.2013s.0_259
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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