霧島山2008年8月22日遭難事故のパーソナル・スケールでの地理学的考察

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  • Personal-scale Geographical Consideration of the Distress Accident on August 22, 2008 in Mt. Kirishima

抄録

【はじめに】山での遭難事故は,①事故者(本人・集団)の要因(体力,技術,知識,判断力,疲労,人間関係や規約,装備,服装等),②自然環境等の外的要因(地形・地質,気象の季節変動・日変動,登山路面を中心とした事故者近辺の状況,落石・雪崩・噴石・動物襲撃等の突発的な「物理的外力」等),③両方を兼ねる要因があり,複合的に相互作用して発生する(青山2004,小林2015等)。従って,山での遭難事故の発生理由を考察するには,これらの要因にかかわる時空間的に整理された具体的な記録を収集・分析する必要がある。<br>発表者は,遭難事故等の事例収集を2009年から実施している。本研究では,霧島山高千穂峰で2008年8月22日に生じた遭難事故(アクシデント,レベル4,腰椎破裂骨折等)について,聞き取りと現地調査等からその実態をパーソナル・スケールで明らかにする。<br>【高千穂峰2008822日遭難事故】事故者(息子)A,父B,母Cに2010年10月18日に会い,2時間弱聞き取り調査した。その証言および現地視察から遭難事故時の行動の前半を,以下に記す。<br> 前日21日に,県外から訪れた家族4人(A,B,C,娘D)は霧島市隼人町日当山の温泉旅館Yに宿泊し,当日22日にチェックアウトした。「暖かく,朝には晴れていた」が,「午後の天気予報は雨」。「(家族の)山の経験は,上高地を数時間歩いた経験1回のみ」。Aは「当時高1で,テニスを小5から週5日〔2時間半/日〕」行う運動習慣があり,「中1から片道11~12kmの自転車通学」していた。一方,娘Dは「当時小6で,部活等での運動経験なし」であった。父Bは「韓国岳に登ることも考えたが,(『天逆鉾をみたい』Aの望みを叶えたく,)高千穂峰でも1時間半くらいで行けるだろう」と考え,登山口がある高千穂河原に向った。<br>「11~11時半にビジターセンター脇の鳥居(標高約970m)から登り始めた」。「息子に,リュックを持たせた。中には,お茶〔500ml〕,アメ〔約100包〕,貴重品,帽子,カメラ,ビジターセンターからもらった地図,母Cの携帯電話が入っていた」。(地形的)森林限界(標高約1150m)から上がガレ場となり,CやDが滑って思うように上がれなかったが,Aは「余裕があり,頂上の剣(天逆鉾)をみたいと思っていた」。「12時過ぎ」で(御鉢の火口縁(標高約1330m)まで達しない)「時々滑る」場所にいた。「前を夫婦(BとC)で歩き」,「天候もあやし」かった。「12時15分くらい」に,Aは,家族と別れて先に山頂に向かった。Bは「木がないから見失わないだろう」「背中が見えていたから(大丈夫)」と考えていた。「12時30分頃」に,「急に霧が出てきて,湿気を感じ」,「(Aがみえなくなって)まずい」と思った。<br>「12時35分ころ」に,CとDは登山を諦めて「分かれて先に下山し始め」,Bは「ガレ場を御鉢の方に上がっていった」。しばらくしてAがBの携帯電話に「道に迷った」と連絡する。Bによると「後から聞くと、(Aは頂上に至る前に)御鉢の火口縁を一周したようだった」。「行き過ぎたところで、電話を掛けた様子だった」。BはAに「『分岐(標高約1420m)で戻ってこい』と伝えようと思い,電話をしたがつながらなかった」。そこで「上に息子がいると思い,仕方なく登っていった」。12時50分頃にAは「すべりやすいところで大雨」に遭った。「道を2・3回折れて登り切る」と,「〔山頂付近と思われる〕整備されたところ」に至った。周囲は「息ができないほどの大粒の雨」で「雷がすごく」,「雷というか、白くて光が見えない」状態だった。Bも「雷で、僕(B)も息子(A)も死ぬかもしれない」と思い,「冷静に判断できない状態」だった。そして,電話でAに「おりる。こわい。お前も降りろ」「御鉢の途中、滑るから気をつけろ」と伝えて下山した。途中の御鉢のガレ場では「〔土石流のような〕ものすごい川」で「大雨がすごく,視界があまりなかった」。<br>Aは「(下り)で来た道を戻ろう」と思ったが、「左右(≒方向)が分からなかった」。「視界1m程度」で周りがみえず,「御鉢のガレ場以上に滑る」状態であった。Aの靴はテニスシューズ。「横に大きな岩をみながら、2・3回折れて降りた後、目印がなくなった」が,そのまま下りた。「(草本に覆われた長さ1m強高さ数10cmの高まりが連続する)モコモコとした」斜面を下った。「急いで下って,滑り,走り,滑り,走りを繰り返した」。「前が見えずに走った」。「すべって、滑って、宙を飛んで、ドン」。「1回半回って、左足の踵から着地」した。<br>「(着信履歴から)13時10分」に,高千穂河原にほぼ到着した父Bの携帯電話の留守電に「崖から落ちた」「立てない状態、ちょっと休んでから行く」とメッセージを残した。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672645888
  • NII論文ID
    130006182632
  • DOI
    10.14866/ajg.2017a.0_100056
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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