グローバリゼーションの下での人口小規模地域の経済再活性化

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書誌事項

タイトル別名
  • Economic revitalization of a region of small population under globalization
  • スイス、シャフハウゼン州の事例
  • A case of Schaffhausen in Switzerland

抄録

大都市圏は、その内部の経済主体の多様性のゆえにイノベーションが実現しやすいという考え方が通念となっている。しかし中欧には、農村的色彩が強い人口小規模地域でありながら、イノベーション形成の伝統をもつ一方で、1990年頃からのグローバリゼーション進展の故に経済衰退の危機に瀕したにも拘らず、再活性化に成功した地域がある。スイスのシャフハウゼン州がその一例である。本報告は、この地域の産業史を概説したうえで、なぜ経済再活性化できたのか、その理由の解明を目的とする。<br>  シャフハウゼン州は1960年時点での人口が約66,000人でしかなく、同名の首都のそれは僅か約3万人だったが、スイスの平均を上回る1人当たり国民所得を1960年代に実現していた。この高い経済力は金属機械工業によっていた。その礎は、19世紀初めにJohann Conrad Fischerが築いた。<br>  シャフハウゼンの工業化が本格化するのは、1857年のヴィンタトゥーアへの鉄道開通、1866年のライン川モーザダム建設による水力活用を契機とする。これ以前、シャフハウゼンはチューリヒ、バーゼル、ザンクトガレンなどの諸都市や州だけでなく、東南に隣接するトゥールガウ州と比べても経済力の劣る地域だった。<br>  しかしダム建設後、各種の工場がシャフハウゼン市とその西に隣接するノイハウゼンに立地した。その中で現在も存続する最も著名な企業は武器・鉄道車両製造企業SIGと高級腕時計メーカーIWCである。金属機械工業のみならず繊維工業も続々と立地した。その中には、1889年に409人を雇用してシャフハウゼン最大企業となったKammgarnspinnerei Schoeller & Söhneもある。<br>  前述のJ.C. Fischer の企業は、その子息Georgが継承し、1890年代に可鍛鋼を素材とする水道管継ぎ手の開発によって世界的な成功を収めて急速に成長し、1896年にGeorg Fischer AG(GF AG)となった。これは、1000人規模のシャフハゼン工場の生産キャパシティ不足の故に、隣接するドイツのジンゲンに600人規模の工場を設立した。GF AGとSIGとが従業者数千人を超える大企業となったがゆえに、シャフハウゼンは金属機械工業特化地域となったかに見える。しかし、化学、電機、繊維、食品工業も立地存続したので、この州の工業は質的な多様性を維持した。<br>  1970年代以降、シャフハウゼン経済は停滞し、さらに衰退期に入った。特に1991~95年の雇用減少率が10%強となり、スイス26州の中で最悪を記録した。これは、シャフハウゼンがグローバリゼーションに伴う国内外の地域間立地競争に敗れたためである。<br>  そこで州経済を立て直すための戦略を策定すべく、州内の中小企業団体であるKantonale Gewerbeverband SchaffhausenのイニシャチブでプロジェクトグループWirtschaftsentwicklung Region Schaffhausen(WERS)が1995年夏に立ち上げられた。これにはIndustrievereinigung Schaffhausenが最初から関与し、いくつかの経営者団体もその活動を支援し、州政府国民経済局も協力した。<br>  WERSの活動には約150人が積極的に関与したが、そのなかで最も重要な役割を果たしたのは、州内に立地するコンサルティング企業Generis AGの代表Thomas Holensteinである。約2年間の活動を経てWERSは、州経済の再生のために州政府が重要な役割を果たすべきであり、「経済振興法」の制定、振興基金の設定、地域内外へのシャフハウゼンに関するマーケティングを行うべき等という提言を1997年10月に取りまとめた。<br>  この提言を受けて策定された「経済振興法」案がまず州議会を通過し、さらに州民投票を経て制定され、経済振興政策が実行に移された。その結果、例えば英語で授業を行うインターナショナルスクールが開設され、この効果もあって多国籍企業の欧州本部機能を持つ事業所の新規立地が進んだ。シャフハウゼン経済は、特に2010年前後以降に成長軌道を歩んでいる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672655104
  • NII論文ID
    130006182540
  • DOI
    10.14866/ajg.2017a.0_100028
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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