カリフォルニアにおけるテンサイ糖産業と移民

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タイトル別名
  • Beet sugar industry and immigrants in California with special reference to Claus Spreckels and Oxnard brothers
  • スプレックルズとオックスナードに着目して

抄録

アメリカ合衆国では、19世紀後半に開発が進行し、その過程でテンサイを原料とする砂糖産業は重要な役割を演じた。テンサイ糖産業の発展のために鉄道敷設と灌漑事業は基盤となり、テンサイばかりでなく、資本、技術、労働力は地域外から導入された。19世紀から20世紀初めまでのテンサイ糖産業の展開を明らかにすることにより、アメリカ西部の開発を再検討することができる。地理学の観点からテンサイ糖産業を検討するためには、資本、製糖工場、テンサイ供給、労働力に注目することが必要になる。また、アメリカ西部のテンサイ糖産業を、サトウキビ糖を含めたグローバルな砂糖産業の枠組みにおいて評価することが必要になる。<br>  アメリカ合衆国では、温帯の作物であるテンサイは南部を除く広大な地域で栽培が可能であるが、テンサイを原料とする製糖業はおもに西部で発展した。1910年代後半には、アメリカ西部には合計65か所のテンサイ糖工場が存在し、3つの集積地域が認められた。すなわち、コロラド州東部とカンザス州西部(サウスプラット川とアーカンザス川の流域)、ユタ州とアイダホ州、そしてカリフォルニア州である。本報告では、カリフォルニアにおけるテンサイ糖産業を対象とする。<br>  アメリカ西部のテンサイ糖産業の発展には、移民が重要な役割を演じた。機械化が進む以前には、テンサイの栽培と収穫には多量の労働力が必要であり、移民は重要な存在であった。なかでも、ロシア系ドイツ人(ヴォルガジャーマン)、日本人、モルモン教徒、メキシコ人は、テンサイ栽培地域において主要な労働力であった。それぞれの地域において、中心となった労働力には地域差がみられた。カリフォルニアでは日本人がテンサイ栽培に従事した。<br>  一方、ドイツとフランスからテンサイと製糖技術を導入したのも移民であった。カリフォルニアでは、ドイツ人移民のクラウス・スプレックルズとフランス人移民のオックスナード兄弟の貢献が評価されている。<br>  ドイツ人移民のクラウス・スプレックルズ(1828~1908年)は、アメリカの砂糖産業の形成に大きな影響を及ぼした。両親はハノーバー近郊の小農民で、6人兄弟の長男であったクラウスは18歳で渡米し、チャールストンで食料品店を経営して成功した。サンフランシスコに移動して食料品店を経営するとともに、ビール醸造でも成功した。そして、Bay Sugar Refineryを経営して砂糖精製事業に進出した。原料糖を確保するためにハワイに進出し、マウイ島でサトウキビプランテーションを経営して、砂糖王Sugar Kingとして知られるようになった。サンフランシスコにもどったのち、Western Sugar Beet Companyを設立して、1888年にワトソンヴィルにテンサイ糖工場を開設した。さらに、近接するサリナスバレーにスプレックルズ製糖工場を建設して、1899年に操業を開始した。カンパニータウンのスプレックルズはサリナスバレーの経済発展の中核をなした。<br>  フランス系アメリカ人の両親をもつヘンリー・オックスナードは、1861年にフランスのマルセイユに生まれた。彼と3人の兄弟はオックスナード兄弟として知られ、American Beet Sugar Company(American Crystale Sugar Company)を経営して、アメリカの製糖業において重要な役割を演じた。砂糖精製事業に携わった父親の影響を受けて、オックスナードはフランスにもどってテンサイ糖技術を学んだ。最初の製糖事業はネブラスカ州で始まり、南カリフォルニアでは1890年にChino Valley Beet Sugar Companyを組織して、翌年に製糖が始まった。さらに、ヴェンチュラ郡のオックスナードの街は1898年に建設され、1899年8月にはオックスナード製糖工場が完成した。この製糖工場は1959年10月の閉鎖まで継続して操業した。<br>  以上のように、カリフォルニアでは移民がテンサイ糖産業の形成に大きな役割を演じた。カリフォルニアの事例を他のテンサイ糖地域と比較対照することにより、アメリカ西部の製糖地域の全体像を明らかにすることができる。  <br>      

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672683904
  • NII論文ID
    130006182648
  • DOI
    10.14866/ajg.2017a.0_100085
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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