整備新幹線開業に伴う地域間連携の変化

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タイトル別名
  • Inter-regional cooperations caused by developement of New Shinkansen Lines
  • 信越・青函の事例
  • Case study of Shinetsu and Seikan region

抄録

1.はじめに<br> 2015年3月に整備新幹線の北陸新幹線・長野-金沢間が、2016年3月に北海道新幹線・新青森-新函館北斗間が開業した。 新幹線の開業は、交通体系の再編、都市機能の変化などを通じて、沿線にとどまらず、広範な地域の関係性に多大な変化を及ぼす。本研究においては、北陸新幹線開業に伴い、長野県北部と新潟県上越・中越地方を中心に構築された、県境を越えた地域間連携、そして、北海道新幹線開業による青森県と道南の交流の変化について、共通点と相違点を整理するとともに、課題や、地理学的立場からの地域貢献の可能性を検討する。<br><br>2.信越地域の連携<br> 信越地域の一部は戦国時代、ともに上杉氏の統治下にあり、今も地域としての一体感が存在する。北陸新幹線開業を契機に2016年2月、「信越県境地域づくり交流会」が始まった。沿線の新潟県上越市にある市役所内シンクタンク・上越創造行政研究所、長野県飯山市が事務局を務める信越9市町村広域観光連携会議(信越自然郷)、さらに上越新幹線沿線の新潟県湯沢町に拠点を置く一般社団法人・雪国観光圏の3組織が核となり、2017年7月までに3回、地域資源を活用した観光や産業、文化の在り方に関するシンポジウムを開催するとともに、人的ネットワークの強化を図っている。<br> 3組織はいずれも、地方自治体が密接に関わりながらも、自治体が直接、前面に出る形ではなく、中間組織的な特性を生かして、行政や企業、NPO法人、大学、住民等を緩やかに結んでいる。さらに、飯山、上越妙高、越後湯沢という新幹線駅を拠点とする「圏域」が連携した結果、上越・北陸という2本の新幹線をつなぐ形で交流が進んできた。象徴的なのは、2017年7月19日に北越急行ほくほく線沿線の新潟県十日町市で開催された第3回交流会で、それまで主に、上越新幹線と北陸地方を結ぶ機能が注目されてきた北越急行が、上越新幹線沿線と北陸新幹線沿線を結ぶ「ローカル・トゥ・ローカル」の機能から再評価される契機となった。 <br><br>3.青函地域の変容<br> 青函地域は、信越地域に比べると、津軽海峡を挟んでエリアが広い上、交通手段が北海道新幹線、青函航路フェリー、そして函館市-大間町(青森県)間のフェリーに限られる。それでも、青函連絡船以来の青森市-函館市を軸とした「青函圏」の交流に、「青森県-道南」の枠組みによる「津軽海峡圏」の活動が加わり、さらに、函館・青森・弘前・八戸の4市による「青函圏観光都市会議」、弘前・函館商工会議所と地元地方銀行による「津軽海峡観光クラスター会議」が発足するなど、連携の枠組みが多層化しつつある。町づくり団体「津軽海峡マグロ女子会」などの活動も活発化している。<br> 信越地域と対照的な点は、県庁・道庁、特に青森県庁が交流を主導している点である。新幹線の開業地が、広大な北海道の南端に位置する事情などもあり、北海道新幹線開業に合わせたデスティネーションキャンペーン(DC)は、終点の北海道側ではなく、青森県側のイニシアティブで展開された。また、DCも、翌2017年に実施された「アフターDC」企画も、「北海道-青森県」ではなく「青森県・函館」のネーミングが用いられた。さらに、青森県庁が2012年度に設立した交流組織「青森県津軽海峡交流圏ラムダ作戦会議」に、2017年度から道南側の住民らがメンバーとして加わるなど、「青森県+道南」の枠組みが強化されつつあるように見える。 <br> 発表者の調査によれば、函館市側では、これまで交流パートナーとして強く意識されてきた青森市の存在感が相対的に低下して、弘前市や、東北新幹線沿線の各都市に関心が移り始めている。函館市側からみれば交流対象の多様化が進む半面、青森市側からは相対的に、狭義の「青函圏」が埋没している形である。<br><br>4.課題と可能性<br> 地域間の連携は、それ自体を目的化することなく、地域課題の解決やビジネスの進展、新たなコミュニティの形成、地域経営のノウハウの交換といった目的を実現する「手段」としての整理が欠かせない。信越地域の活動は、比較的小規模な組織の連携を基盤とするボトムアップ型である。一方、青函地域は自治体や経済界が主な主体となりつつ、住民レベルまで、多層的・多軸的な展開を見せている。それぞれ、当事者が課題や問題意識をどう整理し、どんな成果を挙げていくか、適切な指標を検討し、注視していく必要があろう。 <br> 信越・青函地域とも、人口減少と高齢化が著しいが、特に信越地域では、単純に観光客数などを指標としない、持続可能な地域づくりと経済活動を融合させた取り組みが模索されている。両地域の活動は、他の新幹線沿線や、今後、新幹線が開業するエリアにおける、地域づくりの将来像を占うモデルケースとなり得る。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672736640
  • NII論文ID
    130006182695
  • DOI
    10.14866/ajg.2017a.0_100071
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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