温湿度を指標とした仮設住宅室内の居住環境の評価

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書誌事項

タイトル別名
  • Temperature and Humidity as Indexes of Living Environment in Temporary Housing
  • 岩手県宮古市での観測データに基づく実証的研究
  • An evidence-based study on observation data in Miyako city, Iwate prefecture

抄録

1.研究目的 <br> 本研究グループは、仮設住宅内の居住環境や人体への影響を評価するための基礎データを収集することを目的として、東日本大震災の直後に建設された仮設住宅内で温湿度の観測を続けている。この観測は2012年3月に開始した。当初は岩手県宮古市の仮設住宅Cの二戸のデータのみを収集していたが、2012年の秋からは仮設住宅の造りによる違いを明らかにすることをめざし、場所や種別が異なる3つの仮設住宅(ただし、場所はいずれも岩手県宮古市内)においても観測を始めた。2012年秋と2013年春の日本地理学会では、仮設住宅内における月別の温湿度について、晴天日の日変化の特徴を報告した。本発表では、これまでの観測データから明らかになった仮設住宅内の温湿度環境の特徴を整理して課題を提示するとともに、仮設住宅の造りの違いによる温湿度環境の差異に関して報告をおこなう。 <br><br>2.観測の概要<br> 温湿度(湿度については相対湿度)の観測にはエスペックミック社製のサーモレコーダーミニやおんどとりJrなどを用いた。いずれの温湿度計も壁面から20cm程度離れたところにセンサを設置している。観測をおこなっている仮設住宅の特徴と観測内容を以下に示す。a. 仮設住宅C1規格部会(仮設建築業者)によって建てられた仮設住宅。女性が一人で生活をしている。震災後は何度か断熱材が増設された。人が生活する仮設住宅内の温湿度環境の空間特性を明らかにするために、各部屋(居間、台所、寝室、トイレ、玄関)の床上15cm(床付近)、150cm、200cm(天井付近)で温湿度の観測をおこなっている。b. 仮設住宅C2, E1, J1 いずれの住宅も空き部屋となっており、仮設住宅間の比較のために温湿度計を設置している。仮設住宅C2は仮設住宅C1と同じ団地内で規格部会、仮設住宅E1は地元の住宅メーカー、仮設住宅J1は住宅部会(全国規模の住宅メーカー)によって建てられた。仮設住宅C2、E1、J1の順で沿岸から内陸に位置しており、それに伴いこの順で外気温の日変化の幅(最高気温と最低気温の差)が大きい。<br><br>3.観測結果と課題<br> 仮設住宅の外壁は一般の住宅と比べて断熱材が少なく、仮設住宅内は外気に近い温湿度変化を示す。すなわち、夏場は高温になりやすく、冬場は低温になりやすい。夏場は室温の上昇が人体に負荷を与えて問題となる。熱中症の危険性の指標として利用されるWBGT(湿球黒球温度)の平均的な日変化に注目すると、空き部屋では外気温の日変化と同様、あるいはそれ以上に、最高気温が現れる午後2~3時に値が高くなる(熱中症の危険性が高くなる)。しかし、人が生活する仮設住宅C1(換気を頻繁におこない、日中は冷房をつけて暑さを凌いでいる)では、昼および夕方の台所と昼の寝室で値が高くなっていた。これは、居間が冷房(居間にとりつけられている)により高温が抑えられているのに対して、台所や寝室では冷房の効果が行き届かないこと、台所が夕方に日が入る西側の部屋であること、寝室は窓で閉め切られていること、などが原因になっていると考えられる。 冬場については床面付近や鉄柱の低温が問題となる。さらに人が生活するところでは、暖房(エアコンとストーブ)をつける時間帯に部屋間の温度差が拡大し、人体に負荷を与える。仮設住宅C1の住人の場合、外気の最低気温が5℃を下回る日に暖房をつけており、それと同時に部屋間の温度差も大きく現れるようになる。また、冬季には夜明け後の結露も大きな問題となっている。これには仮設住宅C1においては、早朝にストーブの上で沸かしているやかんからの水蒸気供給も寄与しているようである。 このほか、仮設住宅(空き部屋)間の気温の日変化を比較すると、仮設住宅C1は仮設住宅E1やJ1に比べて、湿度は高く、気温は平均的に1.8~2.7℃くらい低い値を示しており、仮設住宅の造りの違いが温湿度の違いに現れていることが定量的に示された。発表当日には、夏場における仮設住宅(空き部屋)間の比較に関する解析結果や、仮設住宅で調理や入浴を行うに際しての調理台の高さや段差等の環境と身長ごとの居住者の利便性との関係についても考察する予定である。<br><br>付記: なお、本研究は、公益財団法人 トヨタ財団 「2012年度研究助成プログラム東日本大震災対応『特定課題』政策提言助成」の対象プロジェクト(D12-EA-1017)の一部である

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672755072
  • NII論文ID
    130005473499
  • DOI
    10.14866/ajg.2013a.0_100071
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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