訪日韓国人旅行者における韓国系旅行ビジネスの役割

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タイトル別名
  • The role of Korean travel business in Korean travelers visiting Japan

抄録

1. はじめに<br> 日本における韓国人旅行者は,経済発展に伴う海外旅行経験の増加,インターネットの進展による情報入手や予約決済,観光形態のFIT化,LCCの登場,円相場の変動といった様々な環境変化によって急増し,その旅行形態も多様化している。韓国人のインバウンド需要増加や受入地域の変化と並行して,韓国人向けの在住韓国人による旅行ビジネスが台頭しつつある。この下で本報告では,訪日韓国人旅行者数の増加率の高い大阪と沖縄に注目し,旅行者の観光行動における在住韓国人による旅行ビジネスの果たす役割を明らかにすることを目的とする。<br><br> 2. 訪日韓国人旅行者の全体的動向<br> 日本政府観光局(JNTO)によると,訪日韓国人数は2015年に過去初めて約400万人を超え,2016年には約500万人にまで増加した。過去10年間の韓国人の訪問地域は,東京,大阪,福岡,北海道が上位を占めてきたが,訪問者の増加率に変動は見られようになった。2015年以降「大阪」が東京への訪問者数を上回り最大の観光地域となった。また,2014年以降は,LCCの就航と増便,メデイアによる地域イメージの浸透によって「沖縄」への旅行者数が急増している。 <br><br> 3. 訪日韓国人旅行者と韓国系旅行ビジネスとの関係:大阪<br> 大阪を訪れる韓国人旅行者は,滞在期間が短く,グルメや買い物を主な目的としている。近年韓国ではグルメ番組が続々と登場し,「モッバン(韓国語で「食の番組」)」がブームとなり,飲食を目的とした旅行への関心が高まった。韓国ではグルメに期待できる海外旅行先として大阪のイメージが定着しているため,若者と女性旅行者は最初の海外旅行先として大阪を選ぶことが多い。その旅行形態は主に一人旅,家族,友達によるものであり,個人手配が多く韓国人経営の宿を利用する傾向がみられた。近年宿泊施設の不足が目立つ大阪では,韓国系住民が既往のエスニック・ビジネスを宿泊業に転換したり宿泊業との兼業を進めたりするようになった。これら宿泊施設では韓国語が使用でき,穴場グルメスポットの情報を得やすく,食べ歩きや買い物におけるアクセスも良いため,旅行者の観光を充足させている。ただし,無料Wi−Fi環境,地下鉄での案内放送公共交通や道路の案内標識,飲食店等における外国語表記の少なさや外国語対応は今なお課題として残されている。<br><br> 4. 訪日韓国人旅行者と韓国系旅行ビジネスの関係:沖縄 <br> 韓国では,ロケ地として取り上げられるようになった沖縄の知名度が向上しており,沖縄旅行の需要は高まり,航空路線の拡大も見せている。カップルや子供連れの家族旅行者が多く,大半は日本旅行の経験を持つリピーターである。観光目的は主にリラックス,グルメ,買い物,マリンレジャーであり,レンタカーの利用率が非常に高い。これらを受けて沖縄では,現地在住韓国人が旅行業に進出し,韓国人向けにレンタカー,インフォメーションラウンジ,各施設の割引・特典,日帰りツアーを扱うようになった。韓国系旅行業者は観光情報やサービスを提供するだけでなく,旅行マナーや交通安全の周知など成熟した旅行環境づくりにも取り組んでいる。さらに近年,韓国人インストラクターによるマリンスポーツショップも登場し,マリンスポーツ体験と合わせたリピーターを獲得している。<br><br> 5. おわりに<br> 近年増加を見せている訪日韓国人旅行者は,個人手配が多くニーズも多様化している。これに対応した日本在住韓国人による旅行ビジネスが近年出現し,機能し始めるようになった。この韓国系旅行ビジネスは,母国と旅行先の文化的差異を緩和させるとともに,旅行者の観光活動の自由度や選択肢を広げる役割も果たしているのである。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672789632
  • NII論文ID
    130006182663
  • DOI
    10.14866/ajg.2017a.0_100124
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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