無形文化遺産「壬生の花田植」の伝承・公開をめぐる組織体制

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タイトル別名
  • The Organizational System for the Preservation and Promotion of the Intangible Cultural Heritage "Mibu no Hana Taue"

抄録

1.はじめに<br> 広島県北広島町壬生で毎年6月第1日曜日に公開される「壬生の花田植」は,2011年にユネスコ無形文化遺産に登録されており,世界的にも重要な文化事象と認識されている.しかし,「壬生の花田植」の伝承・公開に関わる主体や,その組織体制については,これまで本格的な調査・報告がなされていない.この点について報告者は,北広島町文化遺産保存活用実行委員会が文化庁の補助金を受けて実施した「壬生の花田植調査事業」(2014~2016年度)に参加し,詳細な調査を実施した.本報告の目的は,同事業での成果に基づき,上記の事項について報告するとともに,当該事例における組織体制の特徴を整理することである.<br><br> 2.伝承に関わる組織・主体<br> 「壬生の花田植」の芸能は,田楽と飾り牛に関係するものとに分かれて伝承されている.<br> まず,田楽を伝承する組織には,壬生田楽団と川東田楽団がある.壬生田楽団は,大字壬生の住民有志を主体に構成される.ただし,とくに入団制限を設けていないため,団員の居住地は比較的分散している.団長,副団長,会計の三役が同田楽団を牽引している.対して,川東田楽団では,大字川東のうち下川東に居住する者に原則入団を限っている.それゆえ,団員の居住地は下川東に限定的である.また,団長,副団長,会計のほかに,事務局,女性代表,衣装係,連絡員などがあり,細かく職務を分担している.両田楽団は明白に別組織であり,運営方法はもちろん,活動内容や伝承する芸態にも差異がみられる.<br> 次いで,飾り牛に関係する芸能を伝承しているのは,大朝飾り牛保存会(町内大朝・芸北地域の畜産家で組織),杉原牧場(安芸高田市美土里町),森下牧場(壬生)の3主体である.これらからの飾り牛と追い手が一同に会して「壬生の花田植」の代掻きが遂行される.なお,大朝飾り牛保存会と杉原牧場は「壬生の花田植」のほか,近隣で開かれる複数の花田植に参加している.<br> このように,「壬生の花田植」の芸能は独立的・自律的に活動する複数の組織によって担われ,それらの構成主体は広域的に分布している.前者の結果,「壬生の花田植」の公開においては,それら組織間での調整が必須となるが,その作業は壬生の花田植保存会を中心とした公開に関わる組織が主に担っている.<br><br> 3.公開に関わる組織・主体<br> 現在では北広島町長を会長とする壬生の花田植実行委員会の統括のもと,「壬生の花田植」の公開事業が遂行されている.同委員会には実務的な組織であるWGが設置されており,後述の花田植保存会,行政,北広島町商工会,北広島町観光協会,警察,壬生地区振興協議会等の担当者が参加し,会合を重ねるなかで公開事業の詳細と役割分担が詰められていく.<br> かかる事業体制のなかで,中心的な役割を演じるのが壬生の花田植保存会である.壬生商工会を出自とする同保存会は,前日・当日の人員確保,各芸能保持団体との連絡,公開事業の資金調達等,「壬生の花田植」の公開事業を強力に推進してきた.その構成員に着目すると,商工会壬生地区長が理事長を務め,両田楽団長や田楽団OBはもちろん,行政関係者,振興会関係者,女性会代表,町議会議員,小学校校長,壬生地区の全区長らが名を連ねている.ただし,彼らの居住地は大字壬生・川東周辺に限定的であり,世界的な無形文化遺産をローカルにマネジメントしている.<br><br> 4.おわりに<br> 以上,「壬生の花田植」の伝承・公開に関わる主体とその組織体制について報告した.これらから,①複数の組織に分かれて芸能が伝承されていること,②伝承組織から分離された公開に関わる組織が専門的に運営を担うこと,③公開に関わる組織が地域社会の主要かつ多様な関係者を取り込んでいること,④行政と民間との連携や機能分担が明確化されていることなどを,当該事例における組織体制の特徴としてひとまず整理することができる.資金面の検討や他事例との比較等は,今後の課題としたい.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672795392
  • NII論文ID
    130006182677
  • DOI
    10.14866/ajg.2017a.0_100111
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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