2011 年3月複合震災による福島県内の伝統的地域区分の変容

書誌事項

タイトル別名
  • The Change of Traditional Regional Divisions in Fukushima Prefecture after the Complex Disaster in March, 2011
  • 近接性データによる地域間連結性のQ-分析
  • The Q-analysis of Connectivity between Regions by Accessibility Data

説明

福島県は面積が広く、伝統的に浜通り、中通り、会津の3地域区分で研究者、自治体、地域住民によって認識されてきたが、2011年3月の「複合震災」によってそれはどのように変容したのであろうか。  発表者らは、今年度の日本地理学会春季大会(立正大)での報告に続いて、福島県内100市町村(合併前)間の公的・私的交通機関の近接性データを指標として、地域間の連結性をトポロジカルに分析し、伝統的地域区分の変容を記述することが目的である。 <br> 地域区分は、等質地域であれ結節地域であれ、地理空間が「分割的」に捉えられがちである。分割的とは、ある地域の内部が等質で、他の地域とは分離している状態を指している。こうした地域認識の様式は、地域内の差異性と地域間の関係性を見失わせる。 本発表では、福島県内の市町村間の近接性のデータを用いて、連結構造をトポロジカルに捉える。近接性が、地域性を生み出す有力な指標と考えるからである。ここで、近接性、隣接性、連結性という相互に関連した概念を区別して定義しておく。近接性とは、何らかの「距離」(測地、時間、費用、社会など)の大小を問題にする概念である。隣接性は、近接性データに基づいて、一日で到達可能かどうかという意味での日常生活圏を問題とする。そして連結性とは、隣接性のデータに基づいて、地域間の直接的、間接的な関係性を扱う(水野2006)。この連結性の概念に基づいた、地域の「家族的類似」(ヴィトゲンシュタイン)の状態が、本発表で目指したい地域認識である。<br> 発表者らは、震災前と震災後の2時点に関して、(1)福島県内全域の鉄道・バスの時刻表、駅・停留所の緯度・経度情報を収集した。(2)デジタル道路マップDRM上の福島県内の国道・県道と、道路交通センサスで明らかとなる平均移動時間をリンクした。(3)物的に破損した道路、警戒区域などの通行禁止区間の地理情報を入手した。(4)震災直後の役場の移動と仮設住宅の場所の情報を入手した。  こうしたデータをもとに、GISツールとQ-分析によって分析を行う。まず、公的交通機関(鉄道・バス)と私的交通機関(自動車)による最短時間パスを計算する。公的交通機関については、時刻表によって実際に移動時間を計測し、私的交通機関については、道路交通センサス(震災前)の道路別の平均移動速度で自動車が移動すると仮定する。この最短時間パスの分析から計算された旧100市町村間OD行列に対して、Q-分析(Atkin, 1974)を行う。  <br> 平成23年社会生活基本調査によれば、福島県民(サンプル)の①通勤・通学時間、②その他の移動時間は、それぞれ平均値で、平日が①59分、②80分、日曜が①50分、②107分であった。これらを片道に換算して、通勤・通学では30分が、買い物(土日の買い回りを含む)・受療行動では1時間が、日常生活圏の目安と考えられる。  この2種類の切断パラメータによって隣接行列を作成し、Q分析を8種類行った(震災前・後×公的・私的交通×30分・1時間)。その結果を、各市町村の次元性と連結性を同時に表現するQ地形図で描画した。その結果、震災前後で浜通りの地域区分が分断され、また浜通りと中通りの間にあった連結性も失われた。役場の移動や仮設住宅が中通りに集中することにより、新たな地域構成が生じてきている。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672807552
  • NII論文ID
    130005473486
  • DOI
    10.14866/ajg.2013a.0_100060
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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