生鮮野菜卸売価格の空間分布に関する一考察
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- 中川 恵理子
- 東京大学人文地理学教室
書誌事項
- タイトル別名
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- A study on regional difference of fresh vegetable price among wholesale markets
抄録
日本の生鮮野菜の流通システムは,高度経済成長期を境に,農協および卸売市場を通した広域流通が主流となった.しかし,1970年代ごろから,中小規模産地の維持や,安全で新鮮な野菜を供給するといった役割が見直され,狭域市場型流通が再評価されるようになった.その結果,現在では,多様な生鮮野菜の流通システムが混在している.既存研究には,続出する新しい流通システムや取引手法の内容を調査・記述するものが多く,多様な流通システムが異なる地域の消費者にそれぞれどのような影響を及ぼしているのかをマクロな数値データを用いて検証した研究はほとんどみられない.<br> そこで、本研究では,卸売価格の地域差が,流通範囲の違いによってどのように異なるのか,また,産地からの輸送費や市場規模が,価格にどの程度反映されているのかを明らかにすることを目的とし,輸送費を産出するのに適切な広域市場流通型の夏はくさいを取り上げて,2009年の青果物卸売市場調査の数値データを用いて輸送費と市場規模が価格差に与える影響と,季節による地域間価格差の違いを検討する.検証する仮説は,(1)産地から遠く,輸送費のかかる市場ほど卸売価格が高くなる(2)そのため,広域市場型の方が狭域市場型の場合よりも,地域間で価格の分散が大きくなる(3)市場規模が大きいほど,規模の経済が働いて価格は低くなる,の三つである.<br> (1)輸送費の影響 <br> 本研究では,それぞれの市場の立地をもとに輸送費を割り当てた上で,長野県からかかる輸送費が同じ地域を同輸送費圏と定義する.分析の結果,輸送費そのものと卸売価格の間には,単純な右上がりの関係が見いだせなかった.そこで,同輸送費圏ごとの算術平均値と輸送費の関係をみてみると,輸送費1円の増加に対して卸売価格は0.7円増加するという関係が見いだされた.<br> (2)夏季と冬季の価格のバラつき <br> 月ごとの市場間の卸売価格の標準偏差の推移は年間を通してほぼ一定である.つまり,卸売市場価格の市場間での分散は,産地が集約される夏季にも,産地が分散する冬季にも,大きく変化しない.<br> (3)市場規模と価格の関係 <br> 同輸送費圏内での卸売価格には,市場規模が大きいほど低いという傾向は見られない.むしろ,市場規模の大きい市場は全国平均価格に近い値を実現しており,規模が小さい市場ほど,全国平均から外れる傾向にある.
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2011f (0), 100069-100069, 2011
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680672824704
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- NII論文ID
- 130007018079
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可