2016年熊本地震災害の避難者の特徴:宇城市を事例として

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  • Characteristics of the Evacuees in the 2016 Kumamoto Earthquake Disaster in Uki City, Kumamoto Prefecture

抄録

【はじめに】2016年熊本地震災害では,九州の県と市町村は,九州地方知事会での決定に基づき「カウンターパート方式」で被災市町村をそれぞれを専属的に支援した。筆者も,鹿児島県担当の宇城市で集中的に支援活動を行い,災害対策本部等に助言している。本発表では,この活動や宇城市提供データに基づき,宇城市での被害や避難者の実態を報告する。<br>【地震の概要】2016年4月14日21時26分に熊本県熊本地方を震央とする震源の深さ11kmでM6.5の地震が発生し,益城町では震度7,宇城市では震度6弱が観測された(気象庁)。また,同じく熊本地方を震央とする震源の深さ12kmでM7.3の「本震」が16日1時25分頃に発生し,西原町および益城町で震度7,宇城市で震度6強が観測された。<br> 本震以降,熊本県阿蘇地方や大分県西部および中部でも地震が頻発し,14 日21 時以降6月30日までに震度1 以上を観測する有感地震が1,827 回発生している。これは,平成16年新潟県中越地震(M6.8)など日本で観測された活断層型地震の中で最も多いペースである。<br>【熊本地震による被害の概要】熊本地震災害の主要な被災地の熊本県と津波災害が際立った東日本大震災被災地の岩手県とでの被害状況を比較する。人的な被害としては,死者・行方不明者が岩手県の方が桁違いに多いが,負傷者は熊本県が8倍弱多い。地震動による瓦の落下や家具の倒れ込み等で外傷を負った方々が多かったものと思われる。物的被害として,全壊は岩手県の方が7倍程度多いが,一部損壊は熊本県がほぼ倍程度の数となっている。<br> 東日本大震災では,全壊あるいは大規模半壊でも家屋を解体して「滅失」と判定されて応急仮設住宅に入居できた方々が多く,応急対策期の避難所での生活よりも復旧期の仮設住宅での暮らしの中でさまざまな問題が現出した感がある。一方,熊本地震では「一部損壊」認定世帯が被災者の大半を占め,半壊以上ので手厚く施される生活再建支援のさまざまな手立てを熊本地震災害被災者の大半に適用できない可能性が高い。<br> また,熊本地震では,土砂災害で阿蘇地方での大規模崩壊等が注目されているが,ほとんど報道されていない宅地や農地の盛土地等で小規模な崩壊や亀裂が多数生じており,それらの土地所有者の多くがその対処に難儀している。それは,宅地被害でも家屋の破壊に結びつかないと罹災証明で評価され難く,特に私有地の被害が公的支援の対象になり難いからである。盛土地での被害は,1978年宮城県沖地震や2011年東日本大震災でも丘陵地の団地等で繰り返し発生しており,日本列島の造成地では地震動でどこでも生じる可能性が高かい問題であった。<br>【避難者の特徴】宇城市提供の避難者数データから, 14日「前震」直後より16日「本震」以降で避難者数が多いことが分かる。17日0時に宇城市内避難所20施設合計で,宇城市人口の2割程度の11,335人が最大の避難者数として記録されている。また,日中には避難者数が減じ,寝泊まりする夜間に増加する傾向がある。<br> 一方,約93年間(1923年~2016年4月13日)の宇城市での最大震度は,震度4であった(気象庁)。従って,「前震」までに震度5弱以上の経験者はごくわずかであり,かつ震度5弱以上の地震は宇城市で発生しないと考えていたようであった。そして,地震災害を身近なものと考えていなかったことから,地震にかかわる科学的な知識や地震から身を守る知識や技術も地震が多発する地域の人びとに比べて相対的に低かったと思われる。<br> 「地震に対する備え」が十分でなかった宇城市民は,14日夜の前震と16日未明の地震で「地震の揺れに対する恐怖心」が強化され,家屋の損壊が酷くなくても自宅に入れない人びとが多数出現した。特に夜に地震に遭ったことから家の中で寝られない人びとが多く,それが避難者数の夜間増加の要因となった。<br> 避難者が抱く「地震に対する恐怖心」を軽減・解消するためには,地震の発生が収まることが最も重要であるが,活断層が存在する熊本では今後も地震が必ず発生し,再び恐怖心が呼び起される可能性が高い。これに対処するには,ソフト面では,心理的なカウンセリング等と並んで,防災教育を通じて「地震を知り,これへ対処できる」知識と技術を「地震を経験した人びと」が身に付ける必要がある。具体的には①市民が地震に関する科学的知識を身に付けること,②家具の固定など被害に遭い難い居住環境を事前に整えておくこと,③地震発生時には自身の安全にかかわる周囲の状況を見極められること,④これに応じて「身を守る」行動を選択実行できることなどに及ぶ。<br>【本発表では】今後の防災教育の立案にかかわり,宇城市提供資料の分析や,実施予定の質問紙調査の結果も交えて,本発表時には,熊本地震災害避難者の詳細な特徴を報告する。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672900736
  • NII論文ID
    130005279715
  • DOI
    10.14866/ajg.2016a.0_100028
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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