黄砂による人畜への健康影響
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- 大谷 眞二
- 鳥取大学医学部
書誌事項
- タイトル別名
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- Effects of Asian Dust on Human and Livestock Health
説明
1. はじめに近年になって黄砂は発生頻度や規模が増大し,これに伴う健康への影響も危惧されはじめた.しかし,人や家畜を対象とした黄砂研究は少なく,黄砂による人畜への影響はほとんど解明されていないのが実情である.そこで,本発表ではモンゴルおよび日本国内における黄砂に関連した健康上の問題点について述べる. 2. 黄砂発生源周辺における健康影響2008年5月,砂塵と雪を伴った嵐がモンゴル中・東部を中心に52人の死者と27万頭あまりの家畜死をもたらした.これは観測史上最大規模の被害であり,通信・交通網や医療体制の未整備といった遊牧生活の脆弱性が被害をより大きくしたと考えられる.このように黄砂発生源近くでは規模の大きな場合は災害として位置づけられる.さらに,砂塵嵐に伴い遊牧民に眼や呼吸器の有症状者が増加し,これらの症状により生活の質(QOL)が低下することが指摘されている.また,獣医病理学調査において砂塵嵐・温暖化を含む気候変動に伴う牧草の植生の変化によって新たな植物中毒罹患ヤギの発生が確認されている.経済活動の中心である家畜の被害によって遊牧生活に長期的な影響が及ぼされ,さらなる遊牧民のQOLの低下を招くといった負のサイクルが形成されることになる.3. 日本国内における健康影響今のところ,日本国内では黄砂による重大な健康被害は報告されていないが,近年になり黄砂発生と喘息患者の症状悪化・救急受診との関連性が指摘されている.われわれが健常人を対象として行った調査では、黄砂の程度の指標となる大気中浮遊粒子状物質(SPM)の濃度が高くなると,種々の自覚症状が出現,悪化する傾向がみられ,とくにかゆみなどの皮膚症状とSPM値とはよく相関していた.また,黄砂の飛来経路によって自覚症状に違いがみられ,例えば大陸の工業地帯の上空を経由するような場合,眼や鼻の症状が目立つようになる.このような症状の多彩性の原因として黄砂粒子もしくは飛来過程で黄砂に付着した汚染物質によるアレルギー反応などの可能性が考えられている.4. 今後の展望 黄砂は単なる自然現象から土地の劣化や森林・草地減少といった砂漠化に伴う環境問題として認識されるようになってきた.このような環境変動に伴い,人畜への影響もより多様となってくる可能性があり,これに対応するためには医学分野のみならず,他の領域と連動した持続的かつ体系化された調査・研究をすすめていく必要がある.
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2012a (0), 100075-, 2012
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680673073280
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- NII論文ID
- 130005456906
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可